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死との約束/Appointment with Death  (ねこ4匹)

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「いいかい、彼女を殺してしまわなきゃ…」エルサレムを訪れていたポアロが耳にした男女の囁きは闇を漂い、やがて死海の方へ消えていった。どうしてこうも犯罪を連想させるものにぶつかるのか?ポアロの思いが現実となったように殺人は起こった。謎に包まれた死海を舞台に、ポアロの並外れた慧眼が真実を暴く。(裏表紙引用)
 
エルキュール・ポアロシリーズ長編第16弾。ドラマ化に合わせて予習&復習を。この記事は15弾を読んだあと公開予定で21.2.18に書きました。
 
この作品は結構好きなほうだったので、ところどころ記憶があった。舞台は中近東だし、ポアロが本格的に登場するのは第二部からなのだが、物語にとても吸引力があるので探偵不在でも面白いのだ。何より、冒頭の衝撃的な台詞。誰を殺そうとしているのかは予想がつくし、その会話が誰と誰だったのかはすぐに明かされるしそれほど重要ではない。だって殺しの計画を話すだけなら犯罪ではないし、実際に彼女を殺したのかどうかは分からないから。被害者の老婆はとにかく誰にとっても憎たらしい存在で、よく今まで生きていられたな、というぐらい性格が悪い。元刑務所の女看守だったらしいのだが、家族を服従させなくては気が済まない、誰かを陥れなければ生きがいがない、というような人物なのだ。見た目も醜悪だと聞く。老婆には前夫の子どもである長男と次男、長女と長男の嫁、そして実子である次女がいる。成人し、結婚しているのに関わらず彼らは家から出ることもできず、お金も持たされず、行動の自由がない。他人と関わることも許されない。なんでこんなに全て言いなりになっているのか、とイライラさせられるが、老婆の呪いが効かない長男の嫁や頭のおかしくなった次女、彼らと旅行先で出くわした女医のサラがその異常な関係性に変化を与えていく。。なかなか老婆が死なないので(なんという言い方^^;)もどかしいが、禁じられたロマンスや不倫、老婆の謎の言葉など、惹きつける要素ばかりで読む手が止まらない。
 
ポアロの推理は全員に話を聞いて矛盾点をついたり行動の確認をしたりといつも通り。過去の因縁や彼らのちょっとした言葉や行動から正しいものだけを取り出して真犯人を暴く。中にはミスリードもあるので、予想と外れて悔しい思いをしたりも。家族の再生物語でもあり、一人の哀しい老婆の物語でもあり、もちろんあちこちでカップルも誕生するクリスティーらしさ満載の作品。大満足。旅行気分も味わえるよ。
 
※ドラマでは、舞台をエルサレムから熊野古道に変えて作られるらしい。楽しみだ。しかし、おどおどした次男は市原隼人ではなく長男役の山本耕史のほうが合っている気がするのだが…。それも踏まえて、やはり楽しみ。