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殺人者の顔/Mördare utan Ansikte  (ねこ3.8匹)

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ヘニング・マンケル著。柳沢由実子訳。創元推理文庫。 

雪の予感がする早朝、動機不明の二重殺人が発生した。男は惨殺され、女も「外国の」と言い残して事切れる。片隅で暮らす老夫婦を、誰がかくも残虐に殺害したのか。燎原の火のように燃えひろがる外国人排斥運動の行方は? 人間味溢れる中年刑事ヴァランダー登場。スウェーデン警察小説に新たな歴史を刻む名シリーズの開幕!(裏表紙引用)
 
クルト・ヴァランダーシリーズに挑戦。「創元かハヤカワでなんかシリーズもの新規開拓したい」企画の2冊目。完成度&濃密さはネレ・ノイハウスのほうが断然上だけど、とっつきやすさ&読みやすさはこっちのほうが上かなー。スウェーデンで一番売れてる警察小説とのことで、流行りの北欧小説にしては寒さ硬さがあまり感じられない(マイナス点ではない)。移民政策などの社会問題も扱っているけど、深く切り込んでいるというほどではなく、なんとなくさわりだけ分かるようにしてある。
 
で、主人公のヴァランダーがどういう人物かというと。仕事が忙しく(それだけとは思えないが)、愛する妻には離婚され、年頃の娘とは大きな壁を感じていて、離れて一人で暮らす父親はアルツハイマー病になりかかっている。頭は切れるがお酒に溺れ、既婚者に手を出そうとしてあっけなく玉砕っていうオチャメ(??)な部分も。まあ悩む気持ちは分からんでもないが、飲酒運転が見つかって部下に見逃してもらってるのはダメっしょ。。仕事にかこつけて、姉になかなか電話しないし。。こういう部分が人間らしさ、親近感ってやつなのかもしれない。鑑識担当のリードベリとか、交換手のエッバとか、色々と魅力的な仕事仲間がいるね。旧友と復縁できそうもないのは残念だったが、人間関係については色々いい感じにまとまったようでホっとしたり。
 
肝心のメインストーリーの方は、残酷な老夫婦殺害事件は被害者の隠された人となりが暴かれていったり、外国人だというだけの理由で殺害された事件が起きたりと社会の闇は浮き彫りになっていた。警官が銃を持っていないなど、スウェーデンという国のありようが色々書かれているので勉強になるなあ。事件解決のきっかけが「カン」のようなものばっかりだったり、記憶力のすごい目撃者に頼りきりだったりと「あれれ」な部分も多かったが、まあサクサクと楽しめた気はする。これが最高傑作とはとても思えないし、追いかけてもいいかな、これは。