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暗黒の羊  (ねこ4.3匹)

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美輪和音著。創元推理文庫

事故や通り魔などの過激な動画投稿がやめられなくなり暴走していく女。仲間外れになることを恐れ、同級生の死を願う女子高校生。マンションの隣人に執着し、混迷を深める女…。腹黒い女たちの運命が交錯し、絡み合う。その影に蠢くのは、“羊目の女”なのか―。かつて美人姉妹が殺し合ったという、いわくつきの洋館から生まれる恐怖の連鎖は続く。悪意と企みに満ちた連作集。(裏表紙引用)
 
前作「強欲な羊」がすごく良かったので続編となるコチラも。いやいや、これもまたダークで面白かった!廃羊館にいる羊目の女に自分の身代わりにする人間の名前を告げるとその身代わりとなった人間を殺してくれるという言い伝えをモチーフとした、5編収録の連作短編集。
 
「炎上する羊」
若く美人で料理上手な奥さんをもらった男は幸せの絶頂にいた。しかしある日友人夫婦と出かけた山道で轢き逃げ事件を目撃してから、妻は事故や事件映像をSNSに投稿することが生きがいになってしまう。事件や事故現場を動画に撮る人というのはいるものだが、モザイクなしにモロ遺体や死ぬ瞬間をネットに流すとなるともう異常。しかも本人には罪悪感なし。こんな妻、もう離婚しろよと思うが自己評価が低いのか愛しすぎてしまったのか見捨てない夫にイライラ。友人夫婦も絵に描いたようなクズだし。。あまりのひどい展開に、強烈なオチが弱く感じたほど。
 
「暗黒の羊」
一見仲がいい同士でも女同士となると陰で色々と言われているもんだ。誘拐された女子高生は無事戻ってきたが、無責任な中傷をする者あり本人の前でだけいい顔をする者あり。人間の闇の深さを見せ付けられる。物語だから大げさに描いているとはいえ、あまりにも悪口の質が酷すぎるような。。美月をフった元彼、見かけだけで中身がないだなんてそっちこそ人を見る目がなかったってことよね、今やダンス部部長だもん。一体誰が誰を生贄にしたのか?が最後まで分からない。人のやることを曲解しすぎる人っているけど、この場合は正解だったってことか。
 
「病んだ羊、あるいは狡猾な羊」
マンションの隣人である妻が、夫に対してこの人は夫ではないと訴えてくる。妻を心配した女性は色々と隣りの夫に世話を焼くが…。ちょっと踏み込み過ぎだな、おかしいな、と思っていたら思わぬどんでん返しが。俳優はどこかで絡んでくるとは思っていたが…そっちかい!
 
「不寛容な羊」
吹雪に遭い男が駆け込んだ先は、怪しい老人が住む山小屋。強引に入り込んだが、その家には三人の娘がいた。この娘らも何やらおかしい…。男サイドの視点に変わるので、この男こそ歪んだ正義感を持った怪しい男だということは分かる。監禁犯は誰?一向に噛み合わない、逃げ場のない状況での緊迫感がたまらない。いるよねえ、自分は正しいことをしていると思って個人情報を流したりする人。今では自粛警察っていうのが問題になっているらしいが。
 
「因果な羊」
全てのお話がここで全て繋がる快感。若干複雑すぎて「え?え?」となるが、それぞれのお話のその後や裏の事情が判明してスッキリする。
 
以上。
やはりこの作家さんすごく好み。人間の本性やなんかを、現代の問題と絡めてミステリ仕立てにしてるあたりも実力を感じるなあ。他の作品も面白いのかな。読んでみよう。