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風と共にゆとりぬ  (ねこ5匹)

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朝井リョウ著。文春文庫。

桐島、部活やめるってよ』で鮮烈のデビューを飾り、『何者』で戦後最年少の直木賞受賞作家となった著者が、「ゆとり世代」の日々を描くエッセイシリーズ。雑誌・新聞連載のエッセイに加え、悶絶の痔瘻手術体験を綴った「肛門記」を収録。後日談「肛門記~Eternal~」は文庫オリジナル。ひたすら楽しいだけの読書体験をあなたに。(裏表紙引用)
 
 
朝井リョウさんのエッセイは世界一面白い。。。前作「時をかけるゆとり」が凄く良かったのでこちらも文庫化を楽しみにしていた。前作以上にぶっちぎりの面白さである。というか、「面白い」以外何もないのである。役に立つことが書いてあるわけでもないし、読んで涙したり感動することもないのである。
 
伝説の眼科医が再び登場そして医師とランチにも笑ったが、感受性が低い朝井一家がハワイに行きキャンセルになった「イルカと泳ぐ」というメインアクティビティに対し全員で「残念だ残念だこれは残念なこと」と自分に言い聞かせるくだりや穴場のビーチスポットから速攻帰ってきてドライバー驚愕するシーンは抱腹絶倒。柚木麻子さんとの本気のサプライズ余興にかける意気込みにもどん引いたし、Uさんと共にレンタル彼氏を雇ってUさんの弟役を演じきるという「全員演じている」体験をしてしまう労力には口がポカーンと開いた。。きわめつけに大好きな俳優さんへのお土産にオクラ模型セットて……。ビーチバレー大会でのトラブル…現場の誰ひとり悩んでいない学生相談会…ホームステイ先で中学校校歌…もうかんべんして欲しい。腹筋が崩壊する。。。休憩させて欲しい。。
 
こういうふうに羅列しても面白さは半分も伝わらないと思う。朝井さんの文章が面白いんであって、同じ話を別の人がしても全然笑えないのと同じだ。自分で自分に突っ込むその客観性は小説家ならではのものだし、そのワードセンスも群を抜いている。そもそもの発想が常軌を逸していて、「どうだこんな面白いことをする自分面白いだろう」という狙いが全くないところに世間とのギャップがある。朝井さんの自己評価はネガティブ、友だちができない、馬顔、ファッションセンスは地獄ということだが、どう読んでも友だちは多いし付き合いもいい。他人からも「楽しい人、明るい人」とは絶対思われていないようだ。読者から「もっと真剣に生きてください」という感想が届いたぐらいだから(笑)。だけどこの人は人間や人間に関わることが好きなんだと思う。
 
まあそれにしても…。普通これだけたくさんのエピソードが収録されていたら、作品によって出来や面白さにバラつきが出るものだが…。どこまで読んでもどれを読んでも爆笑なのだから、ちょっと読んでいてこっちのメンタルが持たない。。特に第三部の「肛門記」に至っては……いや、本人は大変だったんだろうけどね。。。肛門と聞いてどん引かなくても大丈夫、朝井さんの文章にかかると全く不快ではない。笑いが止まらない。
 
とにかく万人におすすめのエッセイ。1人でも多くの人にこの本が届きますように。