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あなたに似た人 Ⅰ/Roald Dahl's Short Stories Volume Ⅰ (ねこ4.3匹)

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ロアルド・ダール著。田口俊樹訳。ハヤカワ文庫。

ある日とつぜん夫に別れを告げられた妻は、思わず夫の頭に一撃を喰わせてしまった。刑事である夫の死体が目の前に転がっている。まもなく夫の仲間の警官たちがやってくるにちがいない。さて、妻は凶器をどうする?短篇ミステリのスタンダードとしてあまりにも有名な上記「おとなしい凶器」をはじめ、常軌を逸した賭けの行方や常識人に突然忍び寄る非常識な出来事などを、短篇の名手が残酷かつ繊細に描く11篇を収録する。(裏表紙引用)
 
世界で一番有名な短編集ということで。昔読んだ「キス・キス」「来訪者」がすごく良かったのでこれも読んでみた。特に「おとなしい凶器」「南から来た男」はかなり有名作品だということで。
 
「味」
晩餐会で行われたワインの銘柄当て。美食家の男は主人の娘を要求し、主人は男の別荘を賭ける。男は自信満々でワインの試飲に挑むが…。「これ絶対(主人が)負けるやつやん」と思ってハラハラ読んでいたら予想外の展開に。メイドグッジョブ…。
 
「おとなしい凶器」
妊婦の妻が愛する夫に離婚を言い渡され、妻は冷凍していた子羊の腿肉で夫を殴り殺してしまうが――。冷静な妻が逆に怖いな。。結局どうなったのこれ?というバレるのかバレないのかというギリギリ感がうまい。
 
「南から来た男」
ホテルプールに現れた、南から来た男。アメリカ水兵の若者と、彼のライターの火が10回連続点くかどうかで賭けをすることになった。男は自分のキャデラックを差し出すというが、若者は負けたら自分の小指を失わなければいけない――。これはどっちに転んでも展開が読めないやつ、と思っていたら凄い斜め上の展開になって唖然。
 
「兵士」
これはアレかな、戦争の後遺症というやつかな。ひたすら青年の幻想や幻覚が描かれる。ストーリーらしいストーリーはないけど理屈がないから怖かった。
 
「わが愛しき妻、可愛い人よ」
ブリッジゲームのために招待した夫婦のことを、気の強い妻は気に入らないらしい。夫婦の寝室に盗聴器を付けるように命じられた夫は――。登場人物全員、道徳観めちゃくちゃ。。だからこそ面白い。盗み聞きが思わぬ結果に。夫にとっては何がどうなろうと妻の言いなりなので変わらないかも。
 
「プールでひと泳ぎ」
人生を台無しにするようなギャンブルはやめとけというお話。それ以上に、命を賭けるならもっと対策を万全にしないと。。耳も聞こえる目も見える、挨拶ができるというだけで他人を信頼するのがおかしい。確かめなきゃいけないこと、あとこれがあったか。。というオチ。
 
「ギャロッピング・フォックスリー」
60代の男が毎朝の快適な通勤を新参者に奪われた。その男は12歳のころこき使われ虐待されていた上級生だったのだ。思い切って話しかけたあとのオチにずっこけるが、本人は笑えんだろうな。それぐらいトラウマは残るということ。
 
「皮膚」
かつて老人は若い画家の絵を背中に彫ってもらった。時を経て有名画家の作品となった刺青を買取りたいとホテルオーナーが提案してきたが…。怖すぎやろ…。老人が殺されてませんように…。
 
「毒」
ベッドの中にヘビがいる!男を救おうと医者を呼び血清を打ってクロロホルムを使用する騒ぎとなるが…。実際どうだったんだろう?想像力をかきたてられる。
 
「願い」
子どもがよくやる1人遊び。絨毯のどの色を踏まず脱出できるか。少年の心には本当にヘビがいたのかもしれない。それともまさか。。
 
「首」
新聞社の跡取りを射止めた謎の女。看板に首を突っ込み抜けなくなった女主人を、夫や執事はどう助けるのか――。客にギャンブルを挑む執事、優しく従順そうな夫。。すべてはこの結末のためにあったという感じ。
 
 
以上。
駄作なし。「味」「南から来た男」「わが愛しき妻~」「プールでひと泳ぎ」「ギャロッピング・フォックスリー」「皮膚」「首」がお気に入り。どれも海外ものが苦手でもサラリと読め、すぐにストーリーを把握できるのが凄い。人間のズルさ、恐ろしさ、不思議さを平易に、だけど強烈に描いていてなおかつ想像の余地を残している巧みさ。ブラックなのになぜか後味が悪くないのはなぜだろう。。「Ⅱ」もぜひ読みたい。