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ロシア幽霊軍艦事件  (ねこ3.8匹)

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島田荘司著。新潮文庫nex

箱根、富士屋ホテルに飾られていた一枚の写真。そこには1919年夏に突如芦ノ湖に現れた帝政ロシアの軍艦が写っていた。四方を山に囲まれた軍艦はしかし、一夜にして姿を消す。巨大軍艦はいかにして“密室”から脱したのか。その消失の裏にはロマノフ王朝最後の皇女・アナスタシアと日本を巡る壮大な謎が隠されていた―。御手洗潔が解き明かす、時空を超えた世紀のミステリー。(裏表紙引用)
 
御手洗潔シリーズ第15弾。
シリーズの読みこぼしを。ドラマ化の時に出版社を変えて出版されたのかな?
 
まさかの歴史ミステリー。1993年、松崎レオナから御手洗に届いた手紙。1984年にレオナ宛に届いていたファンレターが今本人の元へ。差出人は倉持ゆりという少女で、ゆりの祖父からレオナに謎の伝言を残したという。それは、「ヴァージニアのアナ・アンダースン・マナハンに倉持が謝っていた」という不可解なものであった。手紙の内容に惹かれた御手洗は、石岡を連れて箱根にある富士屋という伝統あるホテルへ赴く。そこのマジックルームには幽霊軍艦と呼ばれる芦ノ湖に現れた謎の写真が飾られてあったというが…。
 
マナハンがロシアの皇女アナスタシアだと言い張り国際的な裁判騒ぎとなった事件の顛末が壮大に描かれる。小さなところから次々と真実にたどり着く御手洗さんが凄すぎて皆口あんぐり…。特に後半からのアナスタシアの人生がドラマチックすぎて…。誰がこうなると予想しただろう。アナスタシア一家がどういう目に遭ったのかは本人が頑なに口をつぐんでいることから想像はついたのだけど、人間というものは戦時中どれだけ愚かで残忍になれるのかということが思い知らされる。とにかく不快な事実ばかりで読むのが苦痛だったのだが、島田さんの文章だから面白く読めたという感じ。途中から御手洗さんは退場するしね。歴史的薀蓄は正直しんどいのだけど、幽霊軍艦の正体や皇女と軍人の大恋愛には読んでいて感動すらおぼえた。まあ、孤独で身も心もボロボロな時に優しくしてもらったら相手が誰だって惚れる気がする…って言ったらひねくれてるかな。
 
御手洗ものとして期待したら肩すかしかもしれないが(超人であることに変わりはないけれども)、歴史ロマンとしては傑作の部類だと思う。