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銀の仮面/The Silver Mask and Other Stories  (ねこ4匹)

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 ヒュー・ウォルポール著。倉阪鬼一郎編訳。創元推理文庫

裕福だが孤独な女性ソニアは、ある日無一文の青年を哀れみから家に招き入れ、食事をふるまった。半月後、彼はソニアの家を再訪するが、自分の描いた絵を購入するよう執拗に求める…不気味な侵入者がやすやすと善意を食い荒らす様を描き、江戸川乱歩によって「奇妙な味」の傑作と絶賛された表題作をはじめ、不意に立ち現れる不安と恐怖を見事な技巧で切り取った13編を収録する。 (裏表紙引用)
 
完全なるジャケ買い創元推理文庫の白背。
イギリスの小説家で、アメリカで多大な人気らしい。50作ほど発表されているらしいが、日本では表題作が知られているとか。作風としてはスーパーナチュラル系、ダークファンタジー系に分かれている感じ。自分としてはノンスーパーナチュラル系のほうがずっと好きだった。13編と多いので気に入った作品を(ほぼ前半)。
 
「銀の仮面」
母性の強い一人暮らしの初老の女性ソニアのところへ、美青年が訪ねてくる。不審すぎる訪問者をソニアは徐々に受け入れるが…。これ、母性っていう問題か?いきなり訪ねてきて家に入れてくれとか妻を呼ぶとか友人を呼ぶとか怖すぎやろ。。「マザー」っていう、次々と家に知らない人間が来て家を乗っ取っていく不愉快映画があったけど、それに似てる。
 
「敵」
本屋を経営する男ハーディングにはたった一人敵がいた。毎朝通勤時に勤め先の駅まで大声でおしゃべりしながらついてくる近所の男。ある日ハーディングはついに男にお前が嫌いなのだと打ち明けるが…。その男に恨まれて、っていうストーカー話になるのかと思ったら全然違った。まさかの哀しい友情物語。これは罪悪感なのかな。。
 
「死の恐怖」
作家ピーターは休日にサーク島へ赴いたが、同じホテルに大嫌いな男が泊っていると知り絶望する。男は妻を邪険に扱い、皆の嫌われ者だが…。まあ、こうなるでしょ。という展開。どちらも病気だわ。妻がここまで我慢するっていうのももどかしい気持ちになる。ピーターも本気で止める気はなかったのでは。
 
「中国の馬」
生活のために愛する家を若い娘に貸すことになったミス・マクスウェル。しかし娘は家に愛着がなく、だらしない生活をして家は荒れ果てて行った。やがて娘にプロポーズをしたいと言う男性と親しくなったマクスウェルだが…。こんな展開になるんだ(笑)。マクスウェルの家への執着は寂しさの裏返しなんだろうけど、同じ女としてはなんともったいない…と思ってしまう。だから小説になるんだろうけど。
 
「ルビー色のグラス」
8歳のジェレミーの家にやってきたいとこのジェーン。皆は歓迎するが、ジェーンは様々な人や物事を怖がっている様子で…。これは好きな女の子をいじめる心理なのかしら。ジェレミーにとってはこの年代の難しい女の子は魔女なのかも。
 
「トーランド家の長老」
どんなに権力があっても、威張って人を見下していては年老いた時悲惨なことになるなあ。おしゃべりで善意の塊のような女性がトーランド家に現れてから、それが人々のスイッチになってしまったようで。自業自得感。
 
 
ここまでが「Ⅰ」となっていて、ノンスーパーナチュラル系。ここまではどれも面白かった。ここからは人々が動物に見えてしまう男の話や夫の前妻の幽霊に苦しめられる話、目立たない少年が奇術師と出会って人生を変えられる話など、不思議系で占められている。嫌いじゃないけど、どれもあまりひねりはなかったかな。前半の作風がすべてだったらもっと評価は上がっていた。やはり「銀の仮面」が圧倒的。