すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

五つ星をつけてよ  (ねこ4匹)

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 奥田亜希子著。新潮社。

既読スルーなんて、友達じゃないと思ってた。ディスプレイに輝く口コミの星に「いいね!」の親指。その光をたよりに、私は服や家電を、そして人を選ぶ。だけど誰かの意見で何でも決めてしまって、本当に大丈夫なんだろうか……? ブログ、SNS、写真共有サイト。手のひらサイズのインターネットで知らず知らずに伸び縮みする、心と心の距離に翻弄される人々を活写した連作集。(紹介文引用)
 
初読み作家さん。タイトルに惹かれて。
 
「キャンディ・イン・ポケット」
高校の卒業式。「日陰の生きもの」である沙耶は、通学時だけの友人だと思っていた人気者の椎子との真の人間関係にやっと気づく。勝手に劣等感を持ってしまうんだなあ。この年頃の不器用な人間関係を大人になってから悔やむ人は結構いるんじゃないかな。
 
「ジャムの果て」
主婦の晴子の趣味はジャムを作ってブログにアップすること。しかし巣立った娘と息子は、晴子から送られてくるジャムや料理を迷惑がっていた。誠実だと思っていた亡き夫、正しいと思っていた子育て、ネットで知り合った男性の悪意。主婦の孤独心が最後に爆発する。独りよがりの人生の虚しさ。なぜこれを一篇目に持って来なかった?ハートウォーミングな一篇目との作風の落差に驚いた。
 
「空に根ざして」
8年交際し、同棲していた元カノが友人と結婚し、宗喜は複雑な気持ちになる。ハッキリしないことがいい悪いじゃなくて、合わなかった、それだけだと思う。何かに、どこかに根を生やすことに臆病だったのかな。最後のアボカドを投稿しなかったこと、これだけが宗喜にとっての「根」だったのかも。
 
「五つ星をつけてよ」
認知症ぎみの母親のために雇ったヘルパーは母と気が合い、私も気に入っていた。星の評価でしか買い物が出来ない女性。まさに人のふり見て我がふり直せ。取り返しのつかないこともあるかもしれないけど、ネットの評価だけでなく自分で決めたことなら信じるしかないんじゃないかな。目で見たこと、感じたことのほうが大事。
 
「ウォーター・アンダー・ザ・ブリッジ」
直訳されるタイトルの意味を知らなかった。大学生のバンドマン・漣とネットを介して付き合い始めた中学生の麻伊は、お小遣いを貯めて東京へ行くことを決意。中学生に裸の写真送らせて交際する男がまともなわけがない。痛い経験を経て、きちんと相談すれば助けてくれる大人がいることを学んだ麻伊。子を成し、娘があの頃の自分と同じ年齢になって、さあ麻伊は自分の経験を生かせるだろうか。
 
「君に落ちる彗星」
DV男と結婚し男児を育てる元アイドルはヲチスレで叩かれ、給食センターで働く女はオチスレでストレス発散、母親が宗教の教祖の男はヲチスレの連中を眺めて蔑む。アンチコメントをする人間は実生活が充実していない説。こういう人々に付ける薬はないなあと思いながらも、こんな自分を下げて見ている何かもいたりして。と、背筋がゾクっとなる、連作ならではのまとめ方。
 
以上。
ネットをテーマにしたもの多数。現代らしい。この作家さんの物語にはスっと共感する描写が多く、感想が書きやすかった。テーマが身近であることもあるが、リアリティがあり視点が独特。自分に合っていると思うので機会を見つけて別の作品も読んでみたい。