すべてが猫になる

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Iの悲劇  (ねこ4.2匹)

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 米澤穂信著。文藝春秋

 

一度死んだ村に、人を呼び戻す。それが「甦り課」の使命だ。 山あいの小さな集落、簑石。 六年前に滅びたこの場所に人を呼び戻すため、 Iターン支援プロジェクトが実施されることになった。 業務にあたるのは簑石地区を擁する、南はかま市「甦り課」の三人。 人当たりがよく、さばけた新人、観山遊香(かんざん・ゆか)。 出世が望み。公務員らしい公務員、万願寺邦和(まんがんじ・くにかず)。 とにかく定時に退社。やる気の薄い課長、西野秀嗣(にしの・ひでつぐ)。 彼らが向き合うことになったのは、 一癖ある「移住者」たちと、彼らの間で次々と発生する「謎」だった-–。 徐々に明らかになる、限界集落の「現実」! そして静かに待ち受ける「衝撃」。 『満願』『王とサーカス』で 史上初の二年連続ミステリランキング三冠を達成した 最注目の著者による、ミステリ悲喜劇!(裏表紙引用)
 
米澤さんの新刊はノンシリーズの連作短篇集。
 
主人公は南はかま市箕石再生プロジェクト「甦り課」所属の万願寺。新人の観山と共に荒廃した無人村の移住者のお世話をするのが仕事。しかし移住者たちに次々と問題が発生し、次々と彼らは村を去ってゆく。
 
毎晩大音量で音楽をかけバーベキュー、養鯉業を始めようとした男の池から鯉が盗まれる、歴史研究家の男の家に本を読みに来る子どもが行方不明になる、人工物を嫌う奥さんが交流会で出たキノコにあたる、などなど事件は尽きない。1つ1つのお話はどれも人間の思い上がりや人間関係のすれ違い、そこから一線を越えてしまった人々を描いていてどれも面白い。米澤さんの物語はキャラに余計な肉づけをしなくても根本的なところは伝わってくる。主人公の万願寺もごく普通の公務員だが、キャラ付けの必要を感じなかった。普通の作家なら、若い女性の観山を胸がどうだとか化粧がどうだとか万願寺目線で容姿を描写するなど性的なポジションに置くことが多いと思うのだが、米澤さんの作品には不快なそれが一切ない。男性の場合も言うまでもない。
 
この作品では終章で驚きの事実が判明するのだが、米澤さんらしく陰鬱でやるせない内容ながらも現実に地のついた問題を扱っているので派手さはない。だからこそ、この作品に潜む人間の闇や現実的な視点を浮き彫りに出来ているのだと思う。文章の上手い人に過度な演出は必要ないんだなあ。
 
好き嫌いは分かれるかもしれないが個人的にはかなり好みの作風。