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希望荘  (ねこ3.8匹)

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宮部みゆき著。文春文庫。

今多コンツェルン会長の娘である妻と離婚した杉村三郎は、愛娘とも別れ、仕事も失い、東京都北区に私立探偵事務所を開設する。ある日、亡き父が生前に残した「昔、人を殺した」という告白の真偽を調べてほしいという依頼が舞い込む。依頼人によれば、父親は妻の不倫による離婚後、息子との再会までに30年の空白があったという。はたして本当に人殺しはあったのか――。 表題作の「希望荘」をはじめ計4篇を収録。新たなスタートを切った2011年の3.11前後の杉村三郎を描くシリーズ最新作。 『誰か』『名もなき毒』『ペテロの葬列』に続く人気シリーズ第4弾。(裏表紙引用)
 
杉村シリーズ第4弾は4篇収録の短編集。
 
「聖域」
パステル竹中の住人から、真下に住んでいた亡くなった老婆を街で見かけたという話を聞かされた杉村はその真相を探る。生活に困窮していた人間がいきなり羽振り良くなるパターンってアレしかないなと思ったけど、そっちだったか。良かったと言えば良かったのかもしれないけれど、娘があの性格では先が思いやられる気がする。いくら血縁でも、ダメなものはもうダメよ。
 
「希望荘」
レストラン経営者の父が死亡。生前父が周りに吹聴していた人殺しは本当にあったことなのか―。これは現代の事件と絡んでいて奥深い真相。いくら第二第三の人生を歩もうとしても、犯罪に手を染めたら当事者だけでなく関係者の人生まで影響を与えてしまう。この犯人はそこを甘く見ていたのかな。特に被害者遺族はまだ生きていて、時間が止まっている人もいるというのに。この物語の結末のように、単なる被害者遺族としてだけの苦しみを負うだけではない人もいるのだ。
 
「砂男」
杉村が離婚後故郷に帰り、針の筵となりながらもなつめ市場で生き生きと働いていたころのお話。市場のお得意さん夫婦の夫が不倫の末行方不明になった事件を杉村が解決する。これは辛い真相だったな。。男女とは限らないが、愛があっても出会ってはいけない運命というのはあるもんなんだ。悪人じゃなくてもさ。このお話が1番良かったかな。
 
「二重身 ドッペルゲンガー
東日本大震災から二ヶ月後、杉村の住む事務所兼アパートが崩壊。大家の竹中の計らいで住居が確保できた杉村は早速依頼を受ける。訪ねてきた女子高生の母親の恋人が東北に向かったきり行方不明になったというのだ。。
未曾有の大災害に隠れてこんなバカなことをする人間がいる。自分の人生のツケを払わされたんだね。人間、そうそう一発逆転なんて起こらないってこと。自分で破滅するならまだしも、他人の人生を狂わせるなんて話にならない。依頼人の女の子が抱えている問題も、スッキリしたかは分からないけど杉村と出会っていい方向に向かうんじゃないかな。
 
以上。それぞれ中篇ぐらいのページ数があって読み応えがあった。もう少しこのシリーズの特色であるブラックさが出ていればなあとは思うが、杉村の再生第一弾だと思えばこれぐらいにしておいてやったほうがいいかも。
 
とりあえず、これで宮部さんの現代ミステリー、文庫は読破かな。