すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

蝶のいた庭/The Butterfly Garden  (ねこ4.2匹)

f:id:yukiaya1031jp:20190509093336j:plain

ドット・ハチソン著。辻早苗訳。創元推理文庫

FBI特別捜査官のヴィクターは、若い女性の事情聴取に取りかかった。彼女はある男に拉致軟禁された10名以上の女性とともに警察に保護された。彼女の口から、蝶が飛びかう楽園のような温室〈ガーデン〉と、犯人の〈庭師〉に支配されていく女性たちの様子が語られるにつれ、凄惨な事件に慣れているはずの捜査官たちが怖気だっていく。美しい地獄で一体何があったのか? おぞましすぎる世界の真実を知りたくないのに、ページをめくる手が止まらない――。一気読み必至、究極のサスペンス! (裏表紙引用)
 
2019年「このミステリーがすごい!」第9位の作品。
 
舞台はアメリカ。本名も素性もわからない「庭師」と呼ばれる富豪の男が、数年間10代の女性を誘拐し、自宅にある「ガーデン」と呼ばれる温室に何年も軟禁し続けていたという恐ろしい話。彼女たちは背中に蝶の刺青を入れられ、暴行され、21歳の消費期限が来ると殺されガラス樹脂漬けにされる。庭師の長男は凶暴な性格で、彼女たちを好きに暴行し時には半死半生のケガを負わせる。次男は臆病で少女たちに興味を持つが通報する意志がない。。
 
書いててウンザリしてくるような内容。作品はガーデンが崩壊し庭師が瀕死の重態、少女たちが燃え盛るガーデンから救出された「その後」の、FBI捜査官ヴィクターによる聞き取り調査から始まるのが救い。時系列から逆行し、少女の話がなかなか進まず確信に迫らないところがもどかしいな。ヴィクターたちの「そういう話が聞きたいんじゃない」って気持ちがよくわかる。しかし話が進むにつれ、ガーデンの狂気がみるみる明かされていって引き込まれる。
 
この小説の特徴は、このなんともいえない淫靡な幻想感だと思う。悲惨な事件を、少女の語り口でひょっとしたら美しいとまで感じる世界観で表現しているなと。それでも充分庭師や長男、次男にはいらいらするし殺意もおぼえるのだが。庭師は当たり前だが、凶暴な長男より次男のほうが嫌いだった。知ってるのに、いけないと思っているくせに通報する勇気がない人間ほど腹立たしいものはないと思う。少女たちがある程度の自由を許されていたというのに驚愕。監禁って鎖で繋がれてろくに食事も…みたいなイメージがあるけれど、少女たちはちゃんと服も食事も適切に与えられ本を読む権利もある。一種の諦めなんだろうが、少女たちが皆協力し合い姉妹のように生活しているのが違和感ありあり(派閥はあるが)。だから逆に恐ろしかった。
 
ランキング本上位の作品群と比べても遜色ないほどの面白さだったと思うが…9位に甘んじたのは作品が特徴的で好みが分かれるからなのかな。