フラっと入った神戸のジュンク堂の新刊コーナーに積んであったから「うををいつの間に!」と速攻レジへ持って行った。良かった、上中下巻じゃなくて。
ということで今さら私がストーリーを説明したりどこがどう凄かったかとか述べる必要は全くなさそうだが…。同じこと書こうかな。
クラシックは聴かないけど一応ピアノはかじったことがあるのでその末端としても、音楽を愛する1人としても、そして一介の本好きとしても、この作品はとても良かった。演奏の凄さや感動を文章だけで説明するのは難儀なのではないかと思うけれど、恩田さんの持つ豊かでバラエティに富んだ文章がそれを可能にしていた。演奏シーンがとにかく多い作品であり、曲は変わるとはいえ同じコンテスタント(この言い方も初めて知った)がピアノという同じ楽器を同じ場所で弾くシーンがたくさんあるのだが、そのたびに手を変え比喩を変えその音を表現する。こんなことが出来る作家はひと握りだろう。おかげで全く飽きることもなく、その音に至福を感じそのダイナミックさ、繊細さに身を委ねることができた。
それぞれのコンテスタント一人一人もとても生き生きしていて良かった。巨匠に師事し、養蜂家の息子としてピアノのない家庭に育つも天才的感性と技術で彗星のように現れた風間塵。かつてCDデビューを果たし神童として騒がれるも母の死を境にステージをドタキャンした過去を持つ亜夜。ペルー日系3世でどんな楽器も弾きこなしアスリートでもあるマサル。テレビ取材を受けながら臨むのは妻子持ちで会社員、コンテスタント最年長の明石。誰が好き?と言われても「全員好き!」と答えてしまうであろう天才たち。(でもマサルの実写だけは見てみたい)お互いがお互いを刺激し合い、人間としても音楽家としても高め合っていくには挫折も不安もあった。しかし、このコンテストで彼らは成長した。天才には天才の苦悩があるし、天才でなくともここまでの高みにまで登りつめることもまた才能だったのではないだろうか。誰が優勝しても文句のない完璧なエンディングだった。
付け足しになるが、個人的には「音楽は天才だけでなくみんなのもの」「クラシックに限らずどんな音楽ジャンルでも素晴らしいもの」だという解釈が含まれていたのが多分に良かった。