すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

小暮写眞館  (ねこ3.9匹)

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宮部みゆき著。講談社文庫。 

家族とともに古い写眞館付き住居に引っ越ししてきた高校生の花菱英一。変わった新居に戸惑う彼に、一枚の写真が持ち込まれる。それはあり得ない場所に女性の顔が浮かぶ心霊写真だった。不動産屋の事務員、垣本順子に見せると「幽霊」は泣いていると言う。謎を解くことになった英一は。待望の現代ミステリー。(裏表紙引用)
 
な、長かった…。
 
結構これ最近の作品だと思ってたんだけど、もう10年近く前のものなんだね。確かに、今読むとちょっと古いかなっと思う感覚の言葉がチラホラあった気が。
 
三雲高校に通う花菱英一の愛称は「花ちゃん」。友人だけじゃなく、親や弟までも彼をそう呼ぶ。英一が家族と共に引っ越して来た古家は元写真館で、心霊写真にまつわる不思議な謎が次々と英一にもたらされる。友人のテンコや顔が丸くて色黒女子のコゲパン、不動産屋の須藤さん、事務員の垣本順子を巻き込んだ様々な人間模様――。
 
正直、上巻を読んでいるあたりはあまり好みとは言えず。上下巻なのに中編集のような構成だったし、心霊写真の謎解きがどれもあまり面白いとは言えなかったので。読み終わった今でもあまり必要だったとは思えない前半の問題の数々。読み終わってわかったのは、これは英一と垣本順子の物語だったということ。最初すごく印象が悪く影の薄かった垣本さんがこんな準主役級のキャラになるとは思わなかったもんな~。電車に飛び込むとか薬を飲みすぎるとか、ほんとに危ない人だったから。須藤社長も、「雇っちゃったから」でお世話をするのが人がいいっていうかなんというか。でも英一と垣本さん、惹かれあっちゃうんだよね。もちろん言葉には出さないけど。のほほんとしてるように見えた英一の心の底にも、膿みたいなドロっとした感情が眠っていたっていうのが二人が惹かれあった要因かなあ。英一の家族にまつわる重く苦しい過去もだんだん明らかになってくるし、親戚一同との一触即発シーンは本当に胸を痛めて読んだ。幼児のピカちゃんにまで姉の死に対する自責の念があったのは…。子を亡くした母親に、あんたのせいだとか…ほんと、今時ほんとにこんなこと言う人いるの?って思うけれど、結構いるんだよね、探せば。「人間って色々あるよねえ」を描かせたら、宮部さんの右に出る者はいないんじゃないかと思う。全てがあるべきところに収まるわけじゃないけれど、それがまた人生なんだなってところまで描ききっているんだから。ほのぼの家族ミステリーだと思っていたけど後半わりとキツくて、予想もしていなかったところまで心が持ち上げられた。切ない終わり方だけど、キレイな思い出で終わっていた方がいいのかもしれないな。