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そしてミランダを殺す/The Kind Worth Killing  (ねこ4.4匹)

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ピーター・スワンソン著。務台夏子訳。創元推理文庫

年末ミステリランキング上位独占の傑作!】 『このミステリーがすごい! 2019年版』第2位 『週刊文春ミステリーベスト10 2018』第2位 『ミステリが読みたい! 2019年版』第2位
 
ある日、ヒースロー空港のバーで、離陸までの時間をつぶしていたテッドは、見知らぬ美女リリーに声をかけられる。彼は酔った勢いで、1週間前に妻のミランダの浮気を知ったことを話し、冗談半分で「妻を殺したい」と漏らす。話を聞いたリリーは、ミランダは殺されて当然と断じ、殺人を正当化する独自の理論を展開してテッドの妻殺害への協力を申し出る。だがふたりの殺人計画が具体化され、決行の日が近づいたとき、予想外の事件が起こり……。4人の男女のモノローグで、殺す者と殺される者、追う者と追われる者の攻防が語られるスリリングな快作!(紹介文引用)
 
これは文句なく面白い。
 
見知らぬ同士が偶然知り合い、殺人を結託するというよくあるストーリーかと思いきや、意外な展開が十重にも二重にも待ち受けていた。
 
浮気された腹いせに妻を殺そうとする実業家のテッドと、過去に幾人もの邪魔な人々を殺害してきたリリー。2人の過去がそれぞれの一人称で代わる代わる語られるのだが、特にリリーの生育環境や思考回路が奇抜すぎて早くも読む手が止まらなかった。2人の計画が順調に進み、さあ殺人決行かと思うのだが…いやいや、中盤からのどんでん返しに目が点。こいつぁ面白くなってきたぞ、と手に汗握る間もなく、ストーリーはこちらが思う方向の斜め上まで突っ走ってしまう。いやこれ、言いたいんだけどほとんど何も言えない。触れただけでネタバレになってしまう。
 
なのでストーリーについては黙っておく。それ以外の要素も興味を惹かれるものが多いので。リリーの「悪いやつは殺されて当然」という考えが物語の主題となっているが、テッドもなかなか自己愛が強いというかなんというか。もちろん若い頃から色々とひどい目に遭っているのだが、彼の場合リリーのような生まれついたサイコパスという感じではなく、ただ相手は正直に誠実にテッドに向き合えば良かったのだ。ミランダは正直に打ち明ければ良かったし、過去のガールフレンドはただ謝れば良かった。危険人物だという印象は拭えないが、同情すべき点はなくもない。それにしたって、億兆長者になって、新しい恋をして。それが犯罪の抑制にならないというのが私のような一般感覚を持つ人間には謎。
 
配偶者や恋人に内緒で会いに行ってはいけない世界があるということと、どんな仕打ちを受けてもやっぱり人は殺すべきではないということだな。