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返事はいらない  (ねこ3.8匹)

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失恋からコンピュータ犯罪の片棒を担ぐにいたる微妙な女性心理の動きを描く表題作。『火車』の原型ともいえる「裏切らないで」。切なくあたたかい「ドルシネアにようこそ」など6編を収録。日々の生活と幻想が交錯する東京。街と人の姿を鮮やかに描き、爽やかでハートウォーミングな読後感を残す。宮部みゆきワールドを確立し、その魅力の全てが凝縮された山本賞受賞前夜の作品集。(裏表紙引用)

 


宮部さんの初期短編集。

 

「返事はいらない」
銀行から1600万円をどうやってだまし取るのか?暗証番号の仕組みなど難しくてよく分からない^^;ファンタジーと言ってもいいぐらい絵空事だけど、刑事との会話ひとつとっても人間対人間という感じで染みる。

 

「ドルシネアへようこそ」
ドレスコードがあるディスコ、駅の掲示板、速記学校などなど時代を感じさせる。知り合ったダサい容姿の女性の正体と真相にビックリ。これもまた時代が生んだ被害者かなあ。冴えないとか言われて伸司気の毒。事件?の成り行きも面白いけれど、それよりディスコのドレスコードにまつわる話が好きだった。

 

「言わずにおいて」
セクハラがギャグかと思うぐらい酷い時代だったんだなあ。お茶くみ要員、男性社員のお嫁さん候補のOLなんてナンセンス。でもこれが後々人情話につながってくるならそうそう悪いことばかりでもないのかな、なんて。まあ、真相は「んなばかな^^;」レベルだけど。

 

「聞こえていますか」
隣人の迷惑息子が意外に素直(笑)。同居問題。これは人を冷たい、優しいだけで分けられると思っていると通用しない、読み手にもそれなりの人としての深みを求められる作品かもしれないと思った。人間を好き嫌いだけでどうこうできたらどれだけラクか。

 

「裏切らないで」
女の見栄というのは時代が変わっても変わらないものかな。方法が時代によって違うだけで。一昔まえは、ブランドで着飾ったり付き合う男のランクで価値が決まったりしたのかな。年を取って感じられる幸せもあるのにね。

 

「私はついてない」
120万の婚約指輪を借金のカタに取られるなよ^^;ってツッコミは置いといて、人を騙すのにここまでやるかっていうのがもう感心の域。


以上。正直、時代の古さがかなりしんどかった。気にならない作風もあるのだけど、宮部さんの場合はモロ「古っ」って感じてしまうのがネックだねえ。ブランドものや宝石などなどを買いまくってクレジット破産、的な女性がたくさん出てくるあたり「火車」の原型っていうのはわかる。でも、大切なものはそうじゃないよ、気づいてよ、って部分が一貫したテーマになっているのが魅力。古くてもテクニックの凄さはわかるし、トリックや罠の全てに人情が絡んでるあたり並の実力じゃないなと。