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オリンピックの身代金  (ねこ3.8匹)

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奥田英朗著。講談社文庫。

 

小生 東京オリンピックのカイサイをボウガイします―兄の死を契機に、社会の底辺ともいうべき過酷な労働現場を知った東大生・島崎国男。彼にとって、五輪開催に沸く東京は、富と繁栄を独占する諸悪の根源でしかなかった。爆破テロをほのめかし、国家に挑んだ青年の行き着く先は?吉川英治文学賞受賞作。(上巻裏表紙引用)

 

 

奥田さんの読みこぼしを。これでエッセイ以外は文庫読破^^。オリンピックも誘拐ものもあまり得意ではないので最後になった。ゆうても奥田さんの作品だから信頼して良かったはずなのだけどね。

 

最初はオリンピックを妨害してお金をせしめようという凶悪犯と国家との闘いなのかと想像していたのだけれど、全然違った。犯人はなんと、真面目で優しい東大生・島崎。このまま順調に行けばエリートコースまっしぐら、のはずの青年がなぜ?実は東京で高速道路を造っていた兄が心不全で亡くなり、上京したのがきっかけ。兄が働いていた会社を見て、自分も兄と同じ仕事をして、兄のことを知りたいという気持ちから始まった計画である。

 

奥田さんは本当に「当時の昭和」を描くのがうまくて、特にこの時代は世代ではないはずなのに凄いなと思う。団地族の暮らしとか流行とかリアルだもん。オリンピックに湧く日本人の様子とか本当にこうだったんだろうな、誰も彼もが一心同体でオリンピックの成功を願ってたんだろうなということが分かった。ヤクザやスリ師ですらそうなんだもの。一般の人が浮かれる一方、労働者たちの環境の悪さに愕然とした。人が死んでも詐欺に遭っても、なかったことにされる世界。少ない賃金で朝から晩まで酷使されて、蔑まれて・・・今がそうとは思いたくないが、全てが改善されたとは思えないものね。そういう人々のことを知ると、島崎のやろうとしていることが真の悪なのかどうか分からなくなってきた。ヒロポンを打つとかそういうのはどうかと思ったけど。田舎の暮らしと東京の暮らしの違いなんかも読むと、子どもの頃から一日中働いて食べるのがやっとで見た目は30代でも老人のよう。。何のために生まれて来たのかと悔しく感じた部分もあるし。

 

ハッキリと解決を示した作品ではないけれど、色々と労働者について考えさせられた作品。