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1922/Full Dark, No Stars (ねこ4匹)

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スティーヴン・キング著。横山啓明・中川聖訳。文春文庫。

 

8年前、私は息子とともに妻を殺し、古井戸に捨てた。殺すことに迷いはなかった。しかし私と息子は、これをきっかけに底なしの破滅へと落下しはじめたのだ…罪悪のもたらす魂の地獄!恐怖の帝王がパワフルな筆致で圧倒する荒涼たる犯罪小説「1922」と、黒いユーモア満載の「公正な取引」を収録。巨匠の最新作品集。(裏表紙引用)

 


4編収録の短編集、「FullDark,No Stars」から「1922」と「公正な取引」の2編を収録したもの。残りの2編は「ビッグ・ドライバー」(未読)に収録されているらしい。「1922」は250ページほどの中編(長編?)で、「公正な取引」は60ページほどの短編。


「1922」
農家を営むウィルフレッドが農地を巡って妻と言い争いになり、息子を言いくるめて妻を計画的に殺害する。死体は土地の井戸に落とし、周りの人々には妻は逃亡したことにしたのだが、息子の精神は限界にまで追い詰められて――というお話。
軽率な行動云々を責めることについては脇へ置くとして、妻を井戸へ落としてからの描写力がとにかく凄い。妻の死体を齧るネズミの恐怖も手伝って、だんだんまともではなくなっていくウィルフレッド。飼っていた牛を妻の死体の上に落とすところとかもう筆が乗りすぎてて最高。自業自得とは言え、本人よりも息子の転落していく様を見るほうが辛かった。

 

「公正な取引」
怪しい店から「延長」という商品を買ったストリーターは、癌に冒されていた。さらに憎い人間としてストリーターは長年の友人の名前を挙げたが――。
なるほど、友人と自分の人生が交換されるのかな?と思って読んでいたら思っていたのと全く違う方向に話が進んで行ってそして終わった。だいたいホラーでこういう設定のものはこういう展開にはならないのだけどね。そういう意味では挑戦的な作品。


以上。2編とも私の好きな、「読む手が止まらない、怖いホラー」だった。そういう意味では満足。お話としての深みはあまりないかもしれないが、退屈しないということではやはり流石キングだなあと。長々と続くヒューマンストーリーより私はこういうのがいい。