すべてが猫になる

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灰色の虹  (ねこ3.7匹)

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身に覚えのない上司殺しの罪で刑に服した江木雅史。事件は彼から家族や恋人、日常生活の全てを奪った。出所後、江木は7年前に自分を冤罪に陥れた者たちへの復讐を決意する。次々と殺される刑事、検事、弁護士……。次の標的は誰か。江木が殺人という罪を犯してまで求めたものは何か。復讐は許されざる罪なのか。愛を奪われた者の孤独と絶望を描き、人間の深遠を抉る長編ミステリー。(裏表紙引用)

 


う~ん(-'-)。。。ずっとずっと息が詰まりそうな小説だった。700ページ強の大長編、貫井さんが心血を注いだ力作である。私はいつも読書をするときは座椅子にもたれてか、寝転がってうつぶせで読むのだが、これはこたつに肘をついて片膝を立てた状態で読み始めて、そのまま30分ほどその姿勢で読み続けてしまい足が痺れてしまったぐらい夢中で読みふけった作品。

 

冤罪事件を扱っているので、読んでいて楽しいなんてことは決してなかったのだが。むしろもうしんどくてしんどくて、主人公が哀れで、関係者に腹が立ってどうしようもなかった。脅しで自白を取る刑事、やる気のない弁護士、他人に採点をつける検事、確証のない証言をする証言者もろもろ。主人公の視点ももちろん混在するが、基本的にはこれは無実の主人公を殺人犯に貶めた男たちの物語である。「刑事」「検事」「弁護士」「裁判官」と章が変わるたびに、またこの不愉快さが続くのかよ!もういいよ!とげんなりしてしまった。それでも先が気になりすぎて読み続けるのだけど。というか、救いが欲しくて、そこまで早くたどり着きたかった一心かもしれない。こんなイヤな人間ばかり、読者は腹が立って当たり前だよ。特に脅しの刑事。こいつが諸悪の根源じゃね?冤罪を晴らそうとする刑事は証言者を責めてたけど、そこ違うだろうと思ったよ。全員悪いのは間違いないけど、刑事以外はしょうがないところもあったんではないかと私は思う。誤解を招く言い方かもしれないが、しょせん人間。

 

これほど作り話に立腹させられる作品は優秀だと思うが、好きかと言われるとかなりキツいな。出来れば真犯人にも切り込んで欲しかったし、婚約者や姉の後々の心境も知りたかった。復讐の連鎖、不幸の連鎖。もちろん復讐はいけないことだが、それを力説する刑事の言い分がどれもどこかで聞いたような意見の域を出ていなかったように思う。もう少し、東野圭吾の描く「差別は当然」のような印象的な訴えが欲しかったなあ。冤罪がどれほどの不幸を生むか、復讐がなぜいけないか。それ以上のものではなかったのが残念だった。貫井作品の中では一番と言っていいほど読ませる作品だっただけに。