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最後の一壜/The Crime of Ezechiele Coen and Other Stories (ねこ3.7匹)

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スタンリイ・エリン著。仁賀克雄・他訳。ハヤカワ・ポケット・ミステリ

 

そのワインは、1929年にサントアンの葡萄園でわずか40ダースだけが醸造されたという。今日ではそのすべてが失われ、多くの専門家が史上最高の名品であろうとしながら、誰ひとりとして現物を味わったこともなければ、ボトルを見たことすらなかった。その伝説のワイン、ニュイ・サントアンが、たった一本残っていた!この世の最後の一壜をめぐる、皮肉で残酷きわまりない復讐劇とは…表題作をはじめ、人間性の根源に潜む悪意を非情に描き出す、傑作の数々を収録。年に一作のペースでじっくりと熟成された、香り高き名品を堪能してください。(裏表紙引用)

 

 

スタンリイ・エリン初読み。短編の名手と呼ばれるエリンの、15編収録の短篇集。

 

エゼキエレ・コーエンの犯罪/拳銃よりも強い武器/127番地の雪どけ/古風な女の死/12番目の彫像/最後の一壜/贋金づくり/画商の女/清算/壁のむこう側/警官アヴァカディアンの不正/天国の片隅で/世代の断絶/内輪/不可解な理由

 

ちょっと多いのと、個人的に合うものと合わないものがハッキリ分かれてしまったので好きだったものをご紹介。

 

拳銃よりも強い武器
男にだらしのない孫娘のために、祖母が孫娘の恋人にギャンブルを挑む話。年の功と頭の良さが小気味良い作品。

 

最後の一壜
貴重なワインの売買をめぐって、男たちが翻弄させられるお話。そのワインが死んでいるかどうかは、開けるまで分からない。高額で買い取る価値をどこに置くかが面白い。ワインにここまでこだわる富豪の気持ちは分からないが、殺人方法としてはずる賢く、驚きだった。

 

画商の女
絵画をあくどい方法で買い取る女と、画家の物語。絵の価格を決める女の方法ががめつくて嫌らしい。そんな女をやっつけるために、画家の恋人が取った方法とは――。一読して、頭がいい!と思った。相手の心理を巧みに読む力と、女のやり口を逆手に取ったやり方に思わず唸ってしまった。

 

壁のむこう側
容姿にコンプレックスがある男が、恋愛観を心理学的に哲学的に語る――。随分と自分勝手な心理と結論だが、狂気に満ちた感じがいい。

 

警官アヴァカディアンの不正
不正を許せないベテランが、そうではない若手警官とコンビを組んだら――。ある夫婦の身に起きた奇妙な誘拐事件は、アヴァカディアンにとって意外な真相を見せる。時代なのかお国柄なのか、私の価値観では全く有り得ない事件だが、こういうのが海外ものを読んで楽しめる要素でもある。

 

世代の断絶
ヒッチハイクをしている若い娘がどれだけ危険か――。姉に、乗せてもらうならファミリー持ちにしろ、と散々諭されていた娘。その通りに実行したら、大変な目に遭ったというもの。果たして、あの男は狂気だったのか、怖いもの知らずの若い娘への愛のムチだったのか――。最後の姉妹の会話が物凄く意味深だ。つ、通じていない。。。のか?


以上。「画商の女」「世代の断絶」が圧倒的に優れていたように思う。洗練された文章と技巧で短編の名手と呼ばれるのは理解したが、私にはちょっと読むのが早すぎたような、こういう作品を読みこなすレベルに私が到達していないと感じた。文字を追うだけで精いっぱいのものが多く、悔しさのほうが残る。