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第二の銃声/The Second Shot  (ねこ4.2匹)

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アントニイ・バークリー著。国書刊行会。世界探偵小説全集2。

探偵作家ジョン・ヒルヤードの邸で作家たちを集めて行われた殺人劇の最中、被害者役の人物が本物の死体となって発見された。殺されたのは放蕩な生活で知られる名うてのプレイボーイ、パーティには彼の死を願う人物がそろっていた。事件の状況から窮地に立たされたピンカートン氏は、その嫌疑をはらすため友人の探偵シェリンガムに助けを求めた。錯綜する証言と二発の銃声の謎、二転三転する論証の末にシェリンガムがたどりついた驚くべき真相とは。緻密な論理性、巧みな人物描写とブロットの妙。本格ミステリの可能性を追求しつづけたバークリーの黄金時代を代表する傑作。 (あらすじ引用)


ハマリにハマったバークリーももうこれで7冊目。今まで本書を読まずにファンぶっていた自分が恥ずかしい。さすが世界探偵小説の2巻だー、と思う出来映え。(別に番号は面白い順じゃないだろうが^^;)

少し文体が「毒入りチョコレート事件」の方に近いかも。シェリンガムの剽軽さが排除されていて、コミカルさが激減しています。反面、物語のスリルや面白さはトップレベル。論理を重視し登場人物を掘り下げない、事件の背景の描写がない既存の本格小説に対抗し、容疑者や被害者の人柄や事件発生までに何が起こっていたか、を緻密に描写するという試みが見事に成功しています。特に被害者となったエリックの傍若無人ぶりは酷いもので、この色男がいかに全ての登場人物に嫌われていたかが一つ一つのエピソードと共に明らかになる様に目が離せる読者などいないでしょう。ほんと、読んでいる自分もこいつなら仕方がない、とまで思いましたからね。きぃっ。
女性キャラは個性豊かで、少し頭がユルい感じに描かれています。元女優のシルヴィアは余計な発言が多い上に浮気するし、純粋可憐のエルザは世間知らずすぎてイライラさせられるし、エリックの従妹であるアーモレルに至ってはネジの外れたおばかさんのよう。皆タイプが違うので飽きさせませんね。

シェリンガムの推理劇は圧巻です。実はあまりこのじれったい推理方法は好きではないのですが、丁寧だし読者への仕掛けという面では良かったのでは。ラストのどんでん返し含め、見事に着地が決まりましたねー。これなら、今国内作家が出版したとしたら充分話題になるレベルなのでは。


ちょっとここからプチ批判。
消去法の変格のようなスタイルで、「犯人ではない証明」を一人ずつ列挙して行くシェリンガム。しかし、後から出して来た情報=後付けの証言が多すぎる。このあたりは伏線として無効だし、論理的に見事とは言えない。
以下↓ネタバレ。未読の方はご注意下さい。












シリルが真犯人だと言う事はかなり早い段階の仕掛けで気付いてしまった。
倒叙法に乗っ取り、加害者の視点で事件を追う』というようなあけっぴろげな伏線である。これは勿論仕掛けであり、「容疑者にされた無実の男」が手記を書く、という煙幕であろうと思う。プラス、エリックの背中が浮いていたり足が動いているあたりも、自分には彼がこの段階で生きていない証明になった。(言葉を発していない以上、何らかのトリックがあると推察される)
十年前に読みたかった。バークリー作品ではトップの出来だと思うが、自分はいつものように「小説としての面白さ」で高評価ということです。



                             (332P/読書所要時間4:30)