すべてが猫になる

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ふたたび赤い悪夢  (ねこ外出中)

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法月綸太郎著。講談社文庫。

法月綸太郎のもとに深夜かかってきた電話。救いを求めてきたのはあのアイドル歌手畠中有里奈だった。ラジオ局の一室で刺されたはずの自分は無傷で、刺した男が死体で発見される。恐怖と混乱に溢れた悪夢の一夜に耐えきれず、法月父子に助けを願い出た。百鬼夜行のアイドル業界で”少女に何が起こったか?”(裏表紙引用)


第一章からいきなり苦悩してるよ!!!(ノーー)ノ☆

……と驚愕するも、本作は『頼子のために』の続編ということ。あの事件、あのエピローグの後の綸太郎の姿ともなれば少しは温かく見守ろうという気にもなる。その苦悩ぶりが引き合いに出されているクイーン論の「九尾の猫」とうまく調和してそれほど違和感もない。謎の男と有里奈の謎の殺傷事件の真相自体はうまい、とは言い切れないがアイドル年表や事務所それぞれの思惑がなかなかに陰険で凄まじく、ストーリー的には面白く読んだ。動機に関してはこちらが素人ながらもそこまでしないだろ、と思う域を出ておらず残念な点も。『頼子~』にまつわる因縁話は負けじと陰惨で、何が起こったかという筋を追う分には何の問題もない。過去の柵が現在の人間関係を大きく動かし、読みごたえのあるドラマとして良く仕上がっていると思う。

※ここからアンチ法月綸太郎・ゆきあやの私見となります。ファンの方はここで踵を返された方が宜しいと思います。


苦悩している綸太郎に対し酷かもしれないが、今回綸太郎は推理をしていないのではないか?人と人の隠れた繋がりを発見する度に「なんとなくそう思った」というような発言をしている上、肝心の真相は当事者の告白で終わっている。さらに、事あるごとに彼が見る悪夢を推理に結びつけようとする姿は正常とはとても思えない。全ての事柄を把握する事など出来ないと最後に達観し人間同士の関係もそういうものだと結論づける彼には探偵としての能力がないのだろうか。また、法月警視が綸太郎のいいワトスン役ではない事も問題だろう。だから力を発揮出来ないのだとは言わないが、警察官として懲戒免職になってもおかしくない行為をする警視にもさらなる不信感を抱いてしまった。
これで苦悩する様が魅力であり個性だと言われても自分にはどうしようもない。これが本当に新本格五本の指に入ろうかという有名な名探偵の姿なのだろうか。