すべてが猫になる

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心理試験 (ねこ3.8匹)

借家の管理人の老婆を殺して、植木鉢に隠してある財産を盗むーー。貧乏大学生の蕗屋は、借家の店子である斎藤に金の隠し場所を聞いて計画を綿密に練った。彼の計画は順調に成功し、斎藤が容疑者となり蕗屋は嫌疑を免れる。しかし、彼の悪行は「心理試験」と、明智小五郎の前にーーーー。(短編)


乱歩短編でも屈指の人気を誇る傑作。「D坂の~」の続編のつもりだとか。
我らの明智小五郎は物語のクライマックスでのんびりと登場するので、いささか
それまでがじれったいのは私だけか。
倒叙ミステリという事で、犯人も分かっているし、その完全犯罪が明智の手によって暴かれる、
という事も既に読者には全て晒されている。

裏の裏をかいてそのまた裏、肝心なのは主役である「心理試験」というより、明智と蕗屋の「心理戦」であり、それがすこぶる面白い。
もちろん愚かな犯罪者よりも明智の方が一枚上である。
まあ、第三者である我ら読者から見れば、「秀才」「頭脳明晰」とされる蕗屋の行動は
大変お粗末で、わざわざ「藪をつついて」いるのが情けなくも哀れ。

この明智の最後の講釈は、現代でも通用する部分があるのではないかと思う。
私は正直特別の思い入れはないが、乱歩入門編としては必読ものの一遍です。

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光文社文庫江戸川乱歩全集」第1巻『屋根裏の散歩者』収録。
創元推理文庫『日本探偵小説全集2 江戸川乱歩集』収録。
春陽文庫江戸川乱歩文庫」第7巻『心理試験』収録。
新潮文庫江戸川乱歩傑作選」収録。