すべてが猫になる

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みなさん、さようなら  (ねこ3.9匹)

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久保田健彦著。幻冬舎文庫

小学校の卒業式で起きた同級生の刺殺事件をきっかけに、団地から出られなくなった少年・渡会悟。彼はそこで一生を過ごす決意をする。だが月日が経ち、同級生は減り、最愛の恋人も彼の前を去ろうとしていた。限られた世界で生きようとした少年が、孤独と葛藤の中で伸びやかに成長する姿を描く、青春小説に革命を起こした鮮烈なるデビュー作。(裏表紙引用)
 
これデビュー作なんだ。知らなかった。ちょうどいいから発売順に読破していこうかな。前回読んで気に入った「青少年のための小説入門」から続けて2冊目で、すっかり久保田氏のファンになってしまったよ。これも面白くって、分厚いのにすぐ読み終わった。
 
舞台はとある町の芙六団地。生まれてから30年間、1度も団地の外へ出られなくなった渡会悟という男の成長記、と言っていいのかな。実は私も団地育ちで、17歳までそこで暮らしていた。1棟49戸のものが31棟あったからかなりのマンモス社宅だったと思う。今でも思い出す、音の鳴る鉄階段、20円のプール、盆踊り大会、毎日遊んだ公園、フェンスの破れた抜け道、スーパーのパンダ焼き、隣の棟に毎年生える白いタンポポ。。年をとると感傷的になるのか、あのボロ団地に帰りたくてしょうがない。もうとっくに壊されてイオンモール+百貨店になってるけど。というわけで、この作品には結構共感するものが多かった。
 
悟の両親は悟が3歳の時に離婚していて、中学生になってから悟は学校へ行かなくなった。それで毎日何をしているのかと言えば、日3回のパトロール。小学校時代の同級生たちを一人一人、何時に帰ってきたとかいちいちチェックしている悟。実は最初悟に対してどう思えばいいのか分からなかった。登校拒否児ではあるが、体を鍛え、勉強をし、家事をこなし、読書、映画鑑賞、バランスの良い食生活、交流は小学生時代の仲間たち。別にこれなら悪くないんじゃないの?と思う自分もいながら、いやいやでもやっぱ世界が狭すぎるのはな、若いうちはな、と思う自分もいた。しかし中盤になってから悟がこうなるに至った事件を知り、悟を気の毒に思う気持ちに変わった。そういえば「青少年~」の主人公?も特殊な病気を抱えていたんだったな。
 
団地内で全て収束する狭い世界の物語だというのに、恋人との別れ、師匠との出会い、保育体験、幼馴染のうつ病、放火事件、児童虐待事件などなど、内容はよくぞここまでというぐらい広がっていく。それでいてとっちらかっていないのが読みやすい理由かも。日と共に団地を去っていく同級生たち、老朽化していく建物、閉店していく馴染みのお店。残されていく人間の寂しさが染みわたる。閉塞感の中、団地を守り、生き残ろうとする悟の姿は悲しくもあった。だからこそクズのチンピラどもを倒した悟はカッコ良かった。
 
不満はラストだけかな。もっとキッパリとした、その決断をした理由や悟の決意の高まり?みたいなものが欲しかった。ちょっとそこは残念。ところでこれ、濱田岳で映画化されたのね。イメージ違いすぎてビックリなんだけど(悟はそこそこモテる容姿で、身体がムキムキなので…)。でもかなり良いらしいので原作無視で観てみたいなー。