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天使のナイフ (ねこ3.9匹)

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薬丸岳著。講談社。第51回江戸川乱歩賞受賞作。


一児の父である桧山は、心に深い傷を負っていた。
数年前。自宅で、妻が子供の目の前で何者かに殺されていたのである。
犯人は捕まったが、いずれも13歳の中学生達の犯行だった。
少年法改正前で、逮捕されず「補導」、さらに被害者は加害者の氏名すら
知ることができず、裁判の内容すら知らされない。少年達が更生したかどうかも
一生知ることができない。
被害者に人権はないのかと理不尽な法律の仕組みに煩悶する桧山。
ある日、桧山の自宅近くで、殺人事件が発生する。その被害者はかつて
妻を殺害した少年の一人だったーーーー。


最近の乱歩賞はいまいち、という方。
何度目の正直かわかりませんが、本作ならいかがでしょうか。
テーマこそ、最近よく取り沙汰されている少年犯罪問題ですが、本作は一歩
深い領域まで踏み込んでいます。「真の贖罪とは、真の更生とは何か」。

中盤までのご都合主義的展開が、やや退屈な文章に加え優等生的な運びか?と
不安にはなりますが、後半から一気に怒濤の展開を見せます。
被害者サイドから事件を考えない社会の仕組みや、少年の更生にばかり血道をあげる
活動家に憤りを感じる主人公。
弁護士や記者と衝突しながらも、新たに起きた殺人事件の真相と、少年達のその後を
必死に追うその姿は、思わず「もう苦しむだけだからやめておけ」と心で声を
かけずにはいられません。


この作品の評価すべき点は、被害者、加害者両サイドから問題を見つめている所でしょう。
ミステリとして驚愕の真相が用意されていますが、見事につながっています。

白熱のクライマックスでは、よくここまで書いたと賞賛に値するでしょう。

書き尽くされたかもしれないテーマを扱い、それでも
「模範的」小説、に留めなかった作者に拍手を送りたい。