すべてが猫になる

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ユートピア  (ねこ3.7匹)

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太平洋を望む美しい景観の港町・鼻崎町。先祖代々からの住人と新たな入居者が混在するその町で生まれ育った久美香は、幼稚園の頃に交通事故に遭い、小学生になっても車椅子生活を送っている。一方、陶芸家のすみれは、久美香を広告塔に車椅子利用者を支援するブランドの立ち上げを思いつく。出だしは上々だったが、ある噂がネット上で流れ、徐々に歯車が狂い始め―。緊迫の心理ミステリー。 (裏表紙引用)

 


山本周五郎賞受賞作なのねえ。ちょい意外な。

 

本作も湊さんの本領が発揮された、女同士の腹黒い付き合いや人の隠れた悪意に切り込んだミステリー。港町に憧れて恋人?と共に移り住んだすみれ、娘が交通事故で車椅子生活となった主婦の菜々子、夫の転勤で家族揃ってやって来た光稀。それぞれの性格がよく描き表されているかなと。

 

湊作品の登場人物にはありがちだけれど、どのキャラもあまり好感が持てない。リアルなのにそう思うということは、実際腹の内を覗けばどんな人間にだって黒い一面はあるってことかな。皆が心の中で思ったことを口に出せば社会は立ちいかないよねえ。私だって表面的には常識人ぶってるけど、心の中で結構人に言えない意見隠し持ってたりするもの。だからって他人に見せてる自分が嘘ってことではないのだけど。

 

まあ例えば、私も福引で一等当てて賞品がコーヒーカップだったらガッカリすると思うし。。高いから、芸術品だからそれを理解しないのかって下に見られても…^^;集団送迎当番の母親が我が子だけをとっさに庇う、っていうのも仕方がないような。。すみれも菜々子もそれぞれの立場で、「自分にとってどうか」ってことでしか批判出来ないのがどうも気分悪かったな。


テーマは善意は悪意よりも恐ろしい、ということだそうだけど、この作品を読む限り確かにそうだなと。好かれと思ってした慈善行為も他人が見れば偽善だったり果ては胡散臭いものになりうるのかと思うとつくづく世の中は難しい。だからこそ、ネットに顔を載せないとか余計なことに嘴を突っ込まないなどの危機管理は必要なんじゃないかなあ。

 

でもこの物語では、人間の悪意だけで終わらないのが実はビックリした。湊作品でこれが来るとはあまり思っていなかったから。子どもは善意の塊だとは思っていないけれど、気がつかないことに気づかせてくれる存在でもあると思う。そういう観点で見ると良い作品だった。