すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

虚構推理短編集 岩永琴子の密室  (ねこ3.9匹)

城平京著。講談社タイガ

一代で飛島家を政財界の華に押し上げた女傑・飛島龍子は常に黒いベールを纏っている。その孫・椿の前に現れはじめた使用人の幽霊が黙示する、老女の驚愕の過去とは──「飛島家の殺人」 あっけなく解決した首吊り自殺偽装殺人事件の裏には、ささや かで儚い恋物語が存在して──「かくてあらかじめ失われ……」 九郎と琴子が開く《密室》の中身は救済か、それとも破滅か。(裏表紙引用)
 
虚構推理シリーズ第6弾。
一眼一足の知恵の神・岩永琴子と不死身の彼氏九郎のコンビが織り成す妖怪譚+本格(虚構)ミステリー、新刊はまたしても短編集。
 
「みだりに扉を開けるなかれ」
妻をバスルームで殺害し自殺に偽装した男は、閉めていたはずの扉が開かれていることで疑心暗鬼となり逮捕される。すべて妖怪のいたずらだったのだが、効果絶大。妖怪たちの間で「妖怪密室びらき」が流行する…。妖怪の仕業なので謎でもなんでもないのだが、妖怪を信じない人間界にどうやって論理的な解釈をさせるかがテーマ。しかし九郎も琴子を「妖怪恋人気取り」と暴言…。。。
 
「鉄板前の眠り姫」
お好み焼き屋に単身来店し、食後眠り込んだ琴子を迎えに来た九郎。だが店主は九郎をこの若く可愛い少女の本当の知り合いなのかと疑い…。店主の誤解を論理的に解きながら、店主自身の持つ秘密も暴かれる。なぜかちょっとホロリ苦い人情話に。
 
「かくてあらかじめ失われ……」
16歳の美矢乃の父が首を吊って死んだ。犯人によって偽造された遺書を持ち去ったのは誰で、犯人の真の目的とは何か。お家騒動+ミステリー。妖怪密室びらきがまたも活躍(?)。立花の家で嘘の推理を披露する琴子。なんだかんだ琴子に振り回される立花が面白い。
 
「怪談・血まみれパイロン」
怪異に敬意を払わない人間を、狸が騙すお話。ていうか、琴子って落語も書くのか(笑)。
 
「飛島家の殺人」
中編の本格ミステリー。政財界の大物だった祖母に、長年被っているベールを取らせるにはどうするか、琴子は真実と虚構どちらの推理も開陳する。嘘でも家族みんなが幸せになればいい。しかしその真実は家族が思っていたものとはかけ離れたものだった。
 
以上。
実はこのシリーズ、見かけ以上に推理が複雑で本格的で、読むのに頭を使う。どの作品も読みごたえがあって人間同士のバカバカしさや憎しみで満たされている。琴子の存在が妖怪界でも人間界でもカリスマ化しており、九郎や立花の存在が今回薄めだったかな。キャラものとして読みたい自分にはそこが不足気味。それにしても、九郎の琴子への態度はひどすぎると思うのだが。。でも……の関係はあるみたいなので恋人枠は得られているのね。九郎のツンデレシーンとか見てみたいのにな。
 

危険な蒸気船オリエント号/Danger on the SS Orient  (ねこ3.7匹)

C・A・ラーマー著。高橋恭美子訳。創元推理文庫

ブッククラブのメンバーは、蒸気船オリエント号での豪華クルーズに参加していた。仲間のひとりアンダースに誘われたのだ。アリシアにとっては彼とのロマンティックな船旅のはずだった。だが乗客が死亡したり行方不になったりで、それどころではなくなってしまう。アリシアたちはミステリマニアの血が騒ぎ、独自調査をはじめる! クリスティ好きの面々大活躍のシリーズ第2弾。(裏表紙引用)
 
ミステリ・マーダー・ブッククラブシリーズ第2弾。
第1弾がなかなか良かったのでこちらの続編も。今回の元ネタ?はもちろん「オリエント急行の殺人」。なので元を読んでからこちらを読みましょう。注意書き付きの元ネタネタバレがあります。
 
前作でアリシアの恋人(未満?)となった医師アンダースの誘いで、ブッククラブのメンバーはシドニーからオークランドまでの5日間のクルーズ旅行へ。しかし船内で車椅子の老婦人の転落死と船長夫人殺人事件が発生。アリシアらクラブのメンバーは捜査に乗り出すが…。
 
前作同様読みやすいしクリスティ作品の雰囲気大事にしてるし普通に面白い。ただ、前作のようなブッククラブで一致団結、みたいなものはなくなっていて残念かな。妹リネットですら目立たなくなっちゃってて、ほぼアリシアとアンダースの恋愛+捜査になってる。個性的なキャラもいるし真相がどんでん返るのはいいとしても、真犯人の動機がちょっとな~。。どんでん返る前の真相の方が良かったかも。。前にも書いたけど、やっぱ本家の足元にも及ばない。というより、クリスティ作品の魅力ってやっぱり「探偵の魅力」が大きいのよね。アリシアではとてもとても。アンダースは前作で私が予感した違和感の通りになっちゃってるし。まあ、次作も読むけど。「白昼の悪魔」だそうです。

蟬かえる  (ねこ4.6匹)

櫻田智也著。創元推理文庫

全国各地を旅する昆虫好きの心優しい青年・魞沢泉(えりさわせん)。彼が解く事件の真相は、いつだって人間の悲しみや愛おしさを秘めていた──。16年前、災害ボランティアの青年が目撃したのは、行方不明の少女の幽霊だったのか? 魞沢が意外な真相を語る表題作など5編を収録。注目の若手実力派が贈る、第74回日本推理作家協会賞と第21回本格ミステリ大賞を受賞した、連作ミステリ第2弾。(裏表紙引用)
 
昆虫マニア・魞沢泉シリーズ第2弾。前作「サーチライトと誘蛾灯」がとても良かったので文庫化を楽しみにしていた作品。確か一昨年くらいのランキング本でもベスト3に入っていたので、第2弾だと知らずに読んでしまったという感想を各所で見た。が、前作を読んでいなくても特に問題はないと思う。1人だけ「これ誰?」ってなると思うが説明もあるし前回の事件と今回のお話とは関連がないので。
 
「蟬かえる」
昆虫探しで山形県の西溜村に来ていた魞沢と非常勤講師の鶴宮は、山中で知り合った青年から15年前に震災で行方不明になった少女の幽霊目撃譚を聞かされる。閉鎖的な村の因習に対する違和感が少女たちに与えた影響を思うと息苦しい。少女消失のトリックとある人物の意外な正体など、一作目からグレードが高い。
 
「コマチグモ」
団地の一室でテーブルの角に頭をぶつけ昏倒した女性と、なぜか現場から逃走し近くの交差点で営業車に轢かれていた娘。魞沢と娘とのトンボやコマチグモに関連する交流のシーンが印象深い。現実の母娘愛が、残酷な習性という動かせない事実を上回り、いい気持ちで読み終えた。
 
「彼方の甲虫」
クネト湿原のある久根戸村でペンションを経営する知人から招待を受けた魞沢。ペンションにはアルバイトの男性が二人と、中東から来た大学生(アサル)の客がいた。決まった時間に太陽が昇る方向へお祈りを欠かさないアサルが翌朝遺体で発見され、容疑はペンションの人間に向かったが…。ペンダントやお祈りの習慣から真相を導き出す魞沢。これはやりきれないお話だった。実際にこういう人間はいるのだろうが、どんな理由があれどその憎しみを個人に向けるのは間違ってる。
 
「ホタル計画」
魞沢が出てこないので「??」と思っていたがなるほど、そういうことか。サイエンス雑誌の編集者と、投稿常連の中学生が行方不明になったライターを探して三千里。教授の変死事件と交わって、物語は意外な方向へ進む。ミステリー的な仕掛けもあり、自然界への警鐘もありと読みごたえのある一作。
 
サブサハラの蠅」
魞沢の大学時代の同期、医師の江口がアフリカから帰ってきた。交流を再開した二人だが、江口にはアフリカで体験した壮絶な物語があった。アフリカ睡眠病のことや、なぜ薬の開発が進まないのかなど、ほとんどの日本人が知らない事実があることに衝撃を受けた。江口が持ち込んだハエやその目的など、もしこれが実行されていたらと背筋が寒くなる。とてもやりきれない重みのある作品だった。
 
以上。
参った。前作を上回る出来だと思う。一作一作読み終わるたびに、「はああ~っ」っと息をついてしまう。文章の吸引力と魅力的な舞台設定と不可思議な謎の数々、主人公魞沢泉のすっとぼけたキャラクターや彼の言葉選びの繊細さや優しさ。装丁やタイトルの軽い雰囲気からは想像もつかないような、深みのある人間ドラマと優れたミステリー。悲しみや情愛、切なさなど人間とは切っても切れない感情を、昆虫の世界とリンクさせ独自の世界観に作り上げている。どれが特に良かったかと聞かれたらどれも良かったとしか言いようのない、死角のない素晴らしい作品集。

疑惑の入会者/A Rogue's Company  (ねこ4匹)

アリスン・モントクレア著。山田久美子訳。創元推理文庫

戦後ロンドンで結婚相談所を営むアイリスとグウェン。ある日、アフリカ出身の入会希望者が現れる。流暢な英語を話す好青年だったが、一方で、グウェンの直感は彼の言葉が嘘だらけだと告げていた。さらにグウェンは自宅付近で彼に出くわし、つけられていると感じた。彼には結婚相手をさがす以外の目的があるのでは? 元スパイと上流階級出身、対照的な女性コンビに危機が迫る! (裏表紙引用)
 
ロンドン謎解き結婚相談所シリーズ第3弾。
前作がちと難しかったのでどうかな~と思っていたが、見事に持ち直した(私が勝手に前作を気に入らなかっただけとも言う)。
 
今回の入会者はライト・ソート結婚相談所初のアフリカ出身入会者。会員に白人しかいない相談所だが、アイリスとグウェンは彼の人柄を見染め入会を受け付ける。しかし嘘を見抜く能力に長けたグウェンが、彼の言葉の端々に嘘を感じ取った。彼の真の目的とは?アイリスたちは調査を開始する。
 
入会者ダイーレイの謎ももちろん面白いのだが、今回は上流階級出身のグウェンの義父がアフリカから帰ってきてしまったことで主な問題はグウェンの1人息子ダニーの養育権騒動となっている。この義父がもう男尊女卑差別主義のほんとに酷いやつで、読んでいる間中ずっとムカムカしっぱなし。妻のことも人間扱いしていないし。そんな義父と共にグウェンが誘拐されちゃったからもう大変。アイリスやアーチー、サリーらのおかげでなんとかなったけど、グウェンがおとなしくしているだけの女じゃないからますます大事件に。殺人事件やダイーレイがベインブリッジ家とどう結びつくのか?なかなか複雑でスリルもあって楽しませてもらった。ダニーは天使だね。アイリスとグウェンの女の友情も良かったし。
 
中編「机の秘密」も収録されていて、こちらもなかなか良かった。

化石少女と七つの冒険  (ねこ4匹)

麻耶雄嵩著。徳間書店

青春、友情、熱気、成長…… 学園ミステリと聞いて思い浮かべること、 それらはすべて裏切られる! 常識破り絶対保証、後味のよさ保証なし。 これが麻耶雄嵩にしか書けない 学園ミステリだ!(紹介文引用)
 
七年ぶり?「化石少女」の続編が登場。
麻耶作品の中では再読を一度もしていないシリーズなので自分の記事だけざっくり読んでみたがそれほど気に入っていなかったらしい。なので気負わず、キャラクター設定だけを頭に入れて読んでみた。良家の令嬢だがテストは万年赤点、推理力だけは抜群の化石オタクまりあと、1年後輩でまりあの下僕の彰が織り成すおかしな学園ミステリー。
 
「古生物部、差し押さえる」
理科室で殺害された一年女子。問題があるのは目撃者か鍵か。校内地図を参照しながら動機と機会があった者をまりあが推理する。……が、彰が誤誘導。一話目から犯人の正体がとんでもない。
 
「彷徨える電人Q」
江戸川乱歩ですな。新クラブ棟九不思議にはバイク部の一つ目ロボットの怪があった。過疎化する古生物部活性化のためまりあは自分も不思議を捏造しようとするが、一階のトイレで男子生徒の他殺死体を発見。生徒は怪異どおりの赤マントをかぶっており。。
七不思議捏造の時点で^^;;動機も推理も納得のいくものだが正式な解決を見せないのは流れ通り。
 
「遅れた火刑」
白亜紀の新種の恐竜の化石を発見したまりあは、一躍時の人となる。変人の化石ガールから学園のスターとなったまりあ。そんな折、書道部で顧問が焼死体で発見される。
このあたりからまりあの推理力があやしい感じに。故意なのかどうか?
 
「化石女」
講義室で刺殺された二年女子が残したダイイングメッセージには、まりあを指摘するかのような「化石女」という血文字が残されていた。。まりあの推理が低迷。新部員の高萩の狙いもそろそろ胡散臭い。
 
「乃公出でずんば」
新クラブ棟の屋上で、恐竜部の女子が殺害されていた。その時刻、変装部部室で着替えをしていた彰の制服が盗まれる。被害者が着ていたのは彰の制服だった。。下品な横断幕と謎の探偵「片理めり」が登場する。着替えの理由があまりピンと来ないが(他に簡単な方法があるような)、もうこの作品集で大事なのはそこではない気がひしひしと。。
 
「三角心中」
学園裏のクスノキに愛染ロープを使う恋のおまじないが流行していた。そのクスノキで男子生徒が首をつり、女子生徒二人が男子とロープを結び合い死亡し…。なかなか練られた事件。だがそれよりも、高萩とまりあに起きていた”事件”に驚愕。
 
二年女子からもらったラブレターが盗まれたことから発生した殺人。文化祭でタイ飯部とのコラボが決まった古生物部だが目撃者がタイ飯部に所属しており。ここで麻耶さんらしいどんでん返し。引っ掛けそのものも十分サプライズとしては効果的なのだが、読後ウツになりそうな悪魔的真相が。。またやってくれた。
 
以上。
連作短篇集と言っても、それぞれ起きる事件自体にそれほど注力して読む必要はなさそう。。全ては最終話の大掛かりなトリックと世界崩壊のため。そもそも彰が前作で殺人者となっており、ペルム学園では毎月のように殺人事件が起き犯人が生徒であることが多い。というトンデモ世界でのミステリーなので、そこを好きになれるかどうかがキモかな。自分は前作よりは受け入れられた。〇〇〇〇役の奪い合い、なんて今までなくて面白いんじゃない。

少女は卒業しない  (ねこ3.6匹)

朝井リョウ著。集英社文庫

今日、わたしは「さよなら」をする。図書館の優しい先生と、退学してしまった幼馴染と、生徒会の先輩と、部内公認の彼氏と、自分だけが知っていた歌声と、たった一人の友達と、そして、胸に詰まったままの、この想いと―。別の高校との合併で、翌日には校舎が取り壊される地方の高校、最後の卒業式の一日を、七人の少女の視点から描く。青春のすべてを詰め込んだ、珠玉の連作短編集。(裏表紙引用)
 
朝井さんの初期短編集。
もうすぐ取り壊されることになる校舎を前に、卒業式当日の7人の少女たちのそれぞれの胸の内を描いた甘酸っぱい物語。
 
「エンドロールが始まる」
先生に片思いしている女子が、図書室でだけは顔を近づけてもいいという理由からそこに通いつめていたというところが切ない。
 
「屋上は青」
ダンサーを目指す幼馴染の尚輝と、優等生の孝子。なんらかの特殊な技能や他人に認められる才能、地位に憧れ自分を卑下することはない。優等生だって大人になったらそれが強力な武器になるんだから。
 
「在校生代表」
在校生の亜弓の卒業生へのなが~~~~~~い送辞だけで綴られている作品。いや、ちょっとこれはやりすぎてて怖かった。この年代の特に浮いているわけでもない普通の女の子がこんな大勢の前で恋愛なんていう高校生にとって究極のプライバシーを延々と語るだろうか。。お笑い芸人みたいなノリのセリフも引いた。。
 
「寺田の足の甲はキャベツ」
バスケ部員同士の交際と別れを描いたお話。花火のシーンが泣ける。。これで別れなきゃいけない、というのが未熟さの表れで、誰にも経験のあることかもしれない。ただ、タイトルがあまり効いていなかったような。うまいこと言えてないというか。
 
「四拍子をもう一度」
卒業ライブでトリを務めることになったバンドの衣装やメイク道具が盗まれた。元々当て振りのバンドだったため、本番で驚きの手段に出るが――。
学校に1人くらいの確率で、こういう才能のある子はいる気がする。青春だなあ。
 
「ふたりの背景」
帰国子女のあすかは、クラスで目立つ里香や真紀子に疎まれ始める。特殊学級の生徒・正道と仲良くなったからだ。あすかと正道は同じ美術部に入部し、あすかはやっと自分の居場所を見つけた気がした。
里香に対しての「僕の目に、あなたは見えなかった」がすごく良かった。
 
「夜明けの中心」
剣道部エースの駿と交際しているまなみと、剣道部部長香川の三角関係。誰もいなくなった校舎で、まなみと香川の会話からさまざまな真相が明らかになる。このお話だけちょっと凝っていて怖かった。きっとまなみは将来、駿や香川との出会いと別れについて何度も語ることになるんだろうな。料理人になったきっかけとして。
 
以上。
う~ん、まあ初期だからね。朝井さんが10代の頃の作品なのかな。青臭くて、やはりまだ言葉の選び方が独特ではないというか。自分の言葉じゃなくて、どこかで見たことのあるよくある言葉をそのまま再利用している感じ。瑞瑞しさや若者の繊細な視点の片鱗は見えるけれど、浮き彫りにまではしていないかな。ちょっと大人が読む小説とは言い難かった。

オルゴォル  (ねこ3.5匹)

朱川湊人著。講談社

「実は前から、ハヤ坊に頼みたいことがあってなぁ」東京に住む小学生のハヤトは、トンダじいさんの“一生に一度のお願い”を預かり、旅に出る。福知山線の事故現場、父さんの再婚と新しい生命、そして広島の原爆ドーム。見るものすべてに価値観を揺さぶられながら、トンダじいさんの想い出のオルゴールを届けるため、ハヤトは一路、鹿児島を目指す。奇跡の、そして感動のクライマックス!直木賞作家による感動の成長物語。(紹介文引用)
 
10年以上ぶりに読む朱川さん。それまではずっと新刊出たら読んでいた作家さんなんだけど、なぜ読まなくなってしまったのだろう?ということで久々に少年の成長物語が描かれた本書を。
 
主人公は両親の離婚により母親と2人で暮らす小学4年生ハヤト。同じ団地に住むトンダじいさんに2万円をもらい、鹿児島に住むツガミシズさんにオルゴールを渡して欲しいと頼まれてしまう。その後トンダじいさんは亡くなった。貰った2万円はゲームに使い、約束を破ろうかと迷っている矢先、父の住む大阪へ世話になることに。父に新しい家族ができたことでショックを受けるハヤトだが、ひょんなことから父のマンションに住むサエさんと共に広島~鹿児島へ向かうことになったのだが――。
 
うん、感動的でいい作品だと思う。クラスで騒ぐタイプの少年だったハヤトが、福知山線脱線事故の現場や原爆ドームなどをその目で見、知らない土地の文化や自分と違う考えを持つ人と出会うことで成長していく。子どもにはちょっと辛い試練もあったかも。しかしサエさんや父は「大人になればハヤトにもわかる」と人生の様々なことをハヤトに教えていく。クラスで避けられていた友だちが旅を経て親友になったりする。非のうちどころのない綺麗なストーリー。
 
ちょっと何か含んだような書き方になって申し訳ない。これは本当に自分がひねくれていることが原因であって参考にしないで欲しいのだが、題材があまりにも教科書的で説教臭くてキツいところがあった。なんだか学校の課題図書みたい。子どものみならず、人が成長する物語で作家さんには扱って欲しくない題材というものが自分にはあって、それはもちろん例外もあるのだが、本書では例外にはならなかった。「そこから何も学ばない、何も感じない人間はいないだろう」と思ってしまうのだ。もう少し、作家さんならではの着眼点や身近だがなかなか気づけない独特のハっとするような発想が欲しい。朱川さんを読まなくなった理由を思い出した読書となってしまった。作品自体は世間評価も高く、素晴らしいもののはずなのであしからず。。