すべてが猫になる

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沈黙の町で  (ねこ3匹)

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北関東のある町で、中学二年生の名倉祐一が転落死した。事故か、自殺か、それとも…?やがて祐一が同級生からいじめを受けていたことが明らかになり、家族、学校、警察を巻き込んださざ波が町を包む…。地方都市の精神風土に迫る衝撃の問題作。(裏表紙引用)

 

 

奥田さんの読みこぼしを。イジメを題材にしていることは知っていたので、しばらくスルーしていた。読んでみて、やはりスルーしてても良かったかも。。出来が悪いということではなくて、終始不愉快で凹む内容だったので。なんで趣味でこんなイヤ~な気持ちにならなきゃいけないんだろうと(それ言うと何も読めないのだけど、自分のイヤなタイプの作風だった)。

 

読んでみて常に感じたことは、やはり誰しも自分が1番可愛いのだということ。イジメ問題に向き合ったというよりは、自分の子どもが逮捕や補導をされたら、自分の生徒が死んだら、自分の学校で死者が出たら、という点に焦点をあてていると感じた。もちろん我が身に降りかかったら全力で子供を守るのだろうけれど、親たちには共感出来るところと出来ないところがあった。いくら我が子が可愛いとは言っても、我が子を庇うことは仕方がない、を前提にしても、ここまで他人の心が分からなくなるものなのか?その立場となった親は4組出てくるが、どの親も同じような性格だったのが腑に落ちなかった。まあ、こればっかりは当事者じゃないとね。

 

母親側はまだいいとしても、父親側に人格を疑うような人間もいたし、人をバカにすることしか知らない弁護士もひたすら不愉快だった。そしてこの作品で注目すべきは「中学生という生き物」というものの特性。残酷であやふやで多感で、クラスでどういう立場にいるかが大事で、彼らには正しさや個性よりも優先すべき人間関係があることが克明に描かれている。被害者側にも問題はあったが、彼もまた未熟な子どもであるわけで。

 

そういうわけで事件の真相がハッキリする作品ではないし、人間同士の軋轢が和らぐことはない。現実らしいと言えば現実らしい。イヤな人はイヤな人のままだし。物語のあっけない幕引きについては批判も出ているようだが、自分はこれを読んで「いずれはこの真相が明るみに出る」と解釈した。想像をめぐらすのも読書の醍醐味。最後に私の全体的なこの作品への印象を言うなら、社会問題を扱うならば何か1つ新しい切り込み方を見せて欲しかったと思う。