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神の子  (ねこ4.2匹)

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少年院入所時の知能検査でIQ161以上を記録した町田博史。戸籍すら持たぬ数奇な境遇の中、他人を顧みず、己の頭脳だけを頼りに生きてきた。そして、収容された少年たちと決行した脱走事件の結末は、予想だにしなかった日々を彼にもたらすこととなる―。一方、闇社会に潜み、自らの手を汚さずに犯罪を重ねる男・室井は、不穏な思惑の下、町田を執拗に追い求めていた。(上巻裏表紙引用)

 

 

薬丸さんの超大長編。文庫にして1100ページ強の大作。順番としては「Aではない君と」の前なんだけど、長かったからじゃないよ先月行きつけの本屋に下巻だけなかったからだよ(誰に言い訳)。

 

いつも社会問題に切り込んだ作品を精力的に描かれている薬丸さんだが、本作は少し毛色が違う。虐待により戸籍を与えられなかった青年・町田が壮絶な人生を経験し、やがて人間らしい心を取り戻してゆく物語。直感像記憶という本を読めばその内容をほぼ記憶する能力を持つ町田。羨ましいな。その知能指数の高さゆえに、裏社会では重宝され、振り込め詐欺などの犯罪を犯してきた。やがて罠にはめられ、殺人犯として少年院に収容される。

 

また、タメイドラッグの御曹司・為井は弟が会社を継ぐことになり気が塞いでいた。何か人の役に立つことをして、会社を経営し父や弟を見返したいという思いから行動を起こす。画期的な合成樹皮を発明した男と、ひそかに憧れていた晶子と共に。そして運命は町田と為井を引き合わせた。

 

――と、いう流れ。様々な人々が交差し、町田と為井に累が及ぶ。闇社会って本当に恐ろしいな。一度関わったら抜けられない怖さを感じる。組織のトップ室井はまるで宗教の教祖のようで、社会をより良くするために幸福な人を不幸にするという詭弁が腹立たしかった。自分というものが確立していない人や寂しい人が取り込まれてしまうのだろうか。整形したり愛人になったりと利用されている雨宮の姉を見ていたら強くそう思った。

 

町田が楓や為井らと出会い、頑なだった性格が徐々に変わっていくのが本当に嬉しかった。為井の会社がどんどん大きくなり、やがて崩壊していく様は少し池井戸潤の作品を思い起こさせたなあ。会社経営とか読むのが好きみたい、自分。

 

多くの出来事が年数をかけ変わってゆくが、この作品で薬丸さんが描きたかったのは更生と人と人の絆だと思う。必ずしも知能が高ければ優れた人間だというわけではないということ。どんなに孤独で絶望していても、人は一人でも自分を必要としてくれる人が現れたときにチャンスに恵まれるのだと思う。薬丸作品の中でも1、2を争う傑作。