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堆塵館/Heap House  (ねこ4.8匹)

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エドワード・ケアリー著。古屋美登里訳。東京創元社

 

19世紀後半、ロンドンの外れの巨大なごみ捨て場。幾重にも重なる屑山の中心に「堆塵館」という巨大な屋敷があり、ごみから財を築いたアイアマンガー一族が住んでいた。一族の者は、生まれると必ず「誕生の品」を与えられ、一生涯肌身離さず持っていなければならない。15歳のクロッドは、聞こえるはずのない物の声を聞くことができる変わった少年だった。ある夜彼は屋敷の外から来た召使いの少女と出会う。それが一族の運命を大きく変えることに…。『望楼館追想』から13年、作者が満を持して贈る超大作。(紹介文引用)

 


初読みエドワード・ケアリー。ネットでタイトルとイラスト、あらすじを見て絶対に好みだと鼻息荒く入手したもの。「アイアマンガー三部作 1」ということらしい。あと2作出るってことだやっほぃ。

 

舞台は19世紀のロンドン。血統を大事にするアイアマンガー一族が、屑山の中に聳え立つ屋敷で暮らしている。語り手のクロッド少年を中心に、何十人もいる叔父や叔母、いとこたちが登場する。屋敷には大勢の使用人がいるが、全て名前を捨て去り「アイアマンガー」を名乗らされる。ややこしいので便宜上「暖炉係のアイアマンガー」「料理人のアイアマンガー」という具合に呼ばれているのだ。薄いながらも使用人たちも一族の血が流れているらしい。それだけでも面白いのだが、一族や使用人には全て「誕生の品」というものがあり、だいたいが灰皿やカバン、スプーンなどの日用品。いつも身につけている決まりだが、使用人たちはその品を普段見ることも触ることも出来ない。婚姻の際には(一族は16歳で皆結婚することになっている)お互いにその品を見せ合うことになっている。

 

クロッドは変わった少年で、物の声が聞こえるのだ。しかし声は物の名前のみである。「ジェームズ・ヘンリー・ヘイワード(浴槽の栓)」「ローランド・カリス(トーストラック)」というふうに。叔母の品の紛失劇に新しい使用人のルーシー・ペナントの登場でクロッドの生活はどんどん賑やかに不穏になってゆく。ルーシーとの禁断の恋や物たちの結集などなど、物語は予期しない方向に加速していく。

 

自分が体験したことのないユニークで閉鎖的で不気味なこの世界観は、雰囲気たっぷりのイラストと共にものすごい吸引力を持って自分を引き込んだ。その魅力は設定に物語がきちんとくっついているところで、大人になったしるしの長ズボン、館の外から侵入したものへの狂気も全て堆塵館の世界に入った人だけのでたらめ。この世界がどこまで破綻していくのか、5月に出るという続編が楽しみでたまらない。この1冊ですっかりこの作者の虜になってしまった。