すべてが猫になる

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鏡の花  (ねこ4匹)

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製鏡所の娘が願う亡き人との再会。少年が抱える切ない空想。姉弟の哀しみを知る月の兎。曼珠沙華が語る夫の過去。少女が見る奇妙なサソリの夢。老夫婦に届いた絵葉書の謎。ほんの小さな行為で、世界は変わってしまった。それでも―。六つの世界が呼応し合い、眩しく美しい光を放つ。まだ誰も見たことのない群像劇。(裏表紙引用)

 


道尾さんの連作短篇集(の、ようなもの)。「光媒の花」で登場した白い蝶がまたモチーフになっている。少し変わった作品で、同じ家族たちを全ての作品で登場させているが作品ごとに誰かが入れ替わり亡くなっているという設定。最初は混乱したが、家族全ての人物が必要な存在であり、生きているというだけで価値のあることだということをしっかり伝える作風となっている。

 

凄いと思うのは、登場人物たちに「他のありえた世界」があったという自覚を与えていないこと。失ったものを各話で提示された読者には分かりやすいメッセージだが、当の本人たちにそれを届けるのは難しい。道尾さんは最終作品でそれを見事にやってみせた。

 

個人的に好きなのは第5章の「水母だと本物のほうが綺麗だから」という台詞と、第6章の蝶が鏡の花にとまるエピソード。人と自然の美しさを表現する道尾さんらしい世界観だと思う。物凄く面白い、という性格の小説ではないが、穏やかで優しく、悲しみの先までも見据えたこれが私の「好きなほうの道尾作品」だ。