すべてが猫になる

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鍵のない夢を見る  (ねこ3.8匹)

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辻村深月著。文春文庫。

 

どうして私にはこんな男しか寄ってこないのだろう?放火現場で再会したのは合コンで知り合った冴えない男。彼は私と再会するために火を?(「石蕗南地区の放火」)夢ばかり追う恋人に心をすり減らす女性教師を待つ破滅(「芹葉大学の夢と殺人)他、地方の町でささやかな夢を見る女たちの暗転を描き絶賛を浴びた直木賞受賞作。(裏表紙引用)

 


辻村さんの直木賞受賞作。
女性の心理に深く切り込んだ作品ばかりが収録されており、共感出来るものやイライラするものまで、リアルな物語が詰まっている。

 

「仁志野町の泥棒」
引っ越して来た新しい友だちの母親は、近所で盗みを繰り返しては各地を転々としている筋金入りの泥棒だった――。おかしいのは母親であってその娘には罪はないから仲良くし続けようとする少女の気持ちはわからんでもない。だが、この結末をどう捉えれば良いのか。性癖は治ったのかどうか。「下」だと思っていた友人が、そうではなくなったことを「自分の名前を忘れられている」という事実で表現するのが上手いなと思った。

 

「石蕗南地区の放火」
36歳の独身女性に言い寄って来るのはダサい気持ち悪い男ばかり、というお話。うーん、これすごい身につまされたわあ^^;若い頃美人でモテていたという事実ってオバサンになってもなかなか捨てられないんだよね。誰の周りにも、「私は若い頃は細かったんだけど~」が口癖の人いるよね。知らんがな、って感じよね。「俺は昔ワルだった」みたいな(笑)。それにしても、男の着てきた服に「Lemon」と入っていた、という部分が最高に面白かったんだけど。辻村さんの普段の洞察力の凄さに敬服するなあ。

 

「美弥谷団地の逃亡者」
あるDV男とそれに依存している女の逃亡劇。偏見で申し訳ないが、出会い系で知り合った人なんてこんなもんでしょ、とか言ったら怒られるかな。やる方もやる方だし。それにしても、この物語を読んでいると「相田み○を」を凄くバカにしてるように受け取ってしまえるんだけど、私だけ?^^;

 

「芹葉大学の夢と殺人」
かなりイタイ夢を持っている男と、イラストレーターを目指す女の物語。男が女に放った「文章が稚拙」の言葉に本気でイラっとしたわあ。そこで離れれば良かったのに。「フって、ごめん」でもうダメだこりゃと思った。。男はもちろんだけど、私はこういう男にしがみつく女のほうに余計に腹が立ってしまうわ。

 

「君本家の誘拐」
念願の出産を経て、育児ノイローゼになってしまった母親のお話。女同士の会話のささいなトゲとか上から目線とか、イチイチ分かってしまうのが辛い^^;酷い母親のニュースが流れて、「私なら絶対そんなことしないのに、どうしてこういう人のところにばかり子供が出来るのか」と思ってしまうことは人間ならあると思う。虐待死などの極端な例は別としても、実際本当に自分なら大丈夫なのか。と考えてしまう作品かもしれない。私の夫は絶対育児に協力的だから大丈夫、ウチは姑と仲が良いから大丈夫、それ、本当に?と一瞬でも思ってしまう作品だね。

 

以上。


どれも辻村さんらしく面白く、女性心理の描写が見事だと思うが。男性に話しても理解されないだろう、小さな見栄や階級付け、嫉妬と羨望の間のようなもの。そこまで思ってるわけじゃないけど、まったくないわけじゃない黒いしこりのような感情。こういうのを描くのが1番難しいと思う。分かりやすい悪女よりも。

 

ところで直木賞というものを私はそれほど信頼していない。だが本作は「直木賞っぽい」印象を受けた。怒られるかもしれないが、私の描く直木賞のイメージと言えば、「その作家の最高傑作ではないものが獲る」「ナマナマしい性描写がある」「結末がモヤっとしている」なのだ。特に後の2つについてはそれこそが純文学という感じでどうも冷めた目で見てしまうのよね。