女子高生が自宅の庭で倒れているのが発見された。母親は言葉を詰まらせる。「愛能う限り、大切に育ててきた娘がこんなことになるなんて」。世間は騒ぐ。これは事故か、自殺か。……遡ること十一年前の台風の日、彼女たちを包んだ幸福は、突如奪い去られていた。母の手記と娘の回想が入り混じり、浮かび上がる真相。これは事故か、それとも――。圧倒的に新しい、「母と娘」を巡る物語。(裏表紙引用)
「母性」がテーマということで、ある一人の女性の徹底的なマザコン振りと倒錯した娘への愛情が告白形式で描かれている。綺麗な言葉で愛を表現し、清く正しく優しく育てられた娘。娘はその愛情を自分の娘にそのまま与えようとする、というお話。さすが湊かなえというか、異常な人格を描くことはもとより、人格形成の過程がネチネチと詳細に表現されている。正しく育てれば正しく育つわけではないと思うし、あくまで愛情の軽薄さと押し付けがましさが起こした結果であろうと思う。自分と娘は別人格であることを理解出来ていない印象があり、つまりはこの母親にとっての母はそうではなかったということだろう。
時折挿入される、「事件後」の語り手にもあるトリックが仕掛けられている。そちらは別にどうでもいいが、告白形式だけではモヤモヤが残りそうな作風をまとめる役割にはなっているかも。「母性」というテーマが読む人を選ぶ作品かと想像したが、実際はこの母親に共感する部分があるという読者はいないのではないか?