すべてが猫になる

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火花  (ねこ3.8匹)

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お笑い芸人二人。奇想の天才である一方で人間味溢れる神谷、彼を師と慕う後輩徳永。笑いの真髄について議論しながら、それぞれの道を歩んでいる。神谷は徳永に「俺の伝記を書け」と命令した。彼らの人生はどう変転していくのか。人間存在の根本を見つめた真摯な筆致が感動を呼ぶ!「文學界」を史上初の大増刷に導いた話題作。(紹介文引用)

 


お笑いコンビ「ピース」の又吉さんの処女小説。又吉さんの本好きはテレビなどで存じていたので、どんな作品をお描きになるのか興味で読んでみた。

 

主人公は売れないお笑い芸人の徳永。そんな徳永が出会った先輩芸人の神谷。神谷は徳永の目から見てとんでもない「あほんだら」で、凄い才能を持っている。神谷を尊敬し、憧れ続ける徳永と神谷の、芸人として、人間としての成長と日々の物語。主人公や神谷の芸人ならではの繊細さは作者のイメージを損なうものではないし、神谷の口から語られる「お笑い論」は実際の作者の言葉なのだろう。色々と物をしっかり考えているのだなということは伝わる。

 

個人的には神谷の人間性に全く魅力を感じなかったのだが、それは自分が凡人だからだろうか。「ああ言えばこう言う」の域を出ていないのは若さゆえだし、現実に売れていない者の言葉は独身者が「結婚っていうのはね」と語っているようで居心地が悪い。そのどうしようもない葛藤の果てにたどり着いた、アイデンティティを崩壊させないための結論が「漫才師は死ぬまで漫才師」なのかなあと思った。芸人じゃなくとも、若い頃に物事を人と違った視点で考えるのは人間皆一緒だとは思うが。

 

体裁としては文章もきちんと文学として成立しており、芸人という色眼鏡がなければ素直に誰しもが「小説家の本」として違和感なく読めるものであろう。個人的にはキャラクターの好き嫌いはともかく面白く読めた。