すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

人間の尊厳と八〇〇メートル  (ねこ3.9匹)

イメージ 1

深水黎一郎著。創元推理文庫

 

「俺と八〇〇メートル競走しないかい」―ふと立ち寄った酒場で、見知らぬ男から持ちかけられた異様な“賭け”の意外な結末。一読忘れがたい余韻をもたらす、日本推理作家協会賞受賞の表題作ほか、極北の国々を旅する日本人青年が、おもちゃ屋と博物館で遭遇した二つの美しい謎物語を綴る「北欧二題」など、バラエティ豊かな5篇を収録。本格の気鋭による初短篇集が待望の文庫化。(裏表紙引用)



ある作品を読みかけてから深水さんとは長い間離れていたのだが、久しぶりにこの短編集から再開することにした。うん、正解だったな。深水さんらしい作品のようであり、そうでないようであり。薀蓄やルビ満載でありながら、読み物としてスラスラ楽しく読める良作だった。

 

「人間の尊厳と八〇〇メートル」
バーで見知らぬ人間に話しかけられ賭けをする、というのは先日読んだ倉知作品にもあったが、定番なのだろうか。人間の尊厳の証明とやらは正直よく分からんかったが、騙しなのかゲームなのか、スリルの楽しめる作品だった。

 

「北欧二題」
出た!ルビ地獄(笑)。深水作品でおなじみのキャラクターがコッソリ登場。ルビと当て字ばかりでイラっとするが、前半のおもちゃ屋で起きた日常の謎はなかなか良かった。

 

「特別警戒態勢」
息子の前で言い争いばかりしている夫婦。ある脅迫状を巡っての推理劇となっているが、語り手が息子というのがこの作品を面白くせしめているのだろう。オチは、オチと言ってもいいのかと思うぐらい想定していた通りのものであったが、こういう風に子どもが大人を見ていたらと考えて読むと大変面白い。

 

「完全犯罪あるいは善人の見えない牙」
語り手が、完全犯罪とはこうあるべきと延々語っているのだが、どうやら捕まってしまったらしい。というのはわかるが、どうしてその完全犯罪が見破られたのかを描いたミステリー。完全にしてやられた感が痛快。故意だと考えるのもアリかも。

 

「蜜月旅行 LUNE DE MIEL」
バックパッカーの新郎が、理想の女性と結婚でき、新妻を喜ばせようと新婚旅行先のパリで奮闘する。読んでいて、あまりにも新郎が知ったかぶって付け焼刃の知識を披露してカラ廻りしているのが可哀想でたまらない。女って、実は男性の自慢話や薀蓄好きじゃないんだよね^^;旅行は本性が出るというけれど、この夫婦の場合はまあ、これで良かったんだろうな。尻に敷かれそうだけど。


以上。
ミステリーではないし深水らしさはないが、最後のお話が一番面白くて好きだったなー。「完全犯罪~」もニヤリとしたし、表題作もよく出来てる。深水作品に、エンジンかかってきたぞ。