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三度目ならばABC  (ねこ3.6匹)

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岡嶋二人著。講談社文庫。

 

 幻の未収録作品「はい、チーズ!」を加え、織田貞夫と土佐美郷の「山本山コンビ」シリーズが生まれ変わった!三度の銃撃事件に隠された事件の真相、仮装パーティーで起きた暗闇密室殺人、プールを用いた驚くべき殺害方法。岡嶋二人ならではのトリックとアイデアの魅力溢れる、7編のミステリー。(裏表紙引用)

 

 

87年に講談社文庫で発刊された同タイトルの、'増補版’。字がでかくなって読みやすい。未収録作品が入っているので、熱心な岡嶋ファンならば買い直した人もいるのではないだろうか。この「下から読んでもとさみさと、上から読んでもとさみさと。下から読んでもおださだお、上から読んでもおださだお」の山本山コンビはシリーズものらしく、この後に「とってもカルディア」として第二弾が出ていたらしい。探偵ものの常として、キャラクターがいかに光っているかは重要だと思うのだが、本シリーズに関しては合格点と言えるかも。かも、と言ったのは、なにぶん昭和59年の作品だもんで、どうしてもノリが古い――当時の言葉で言えば「跳んでる」とでも言うのか、直観と好みだけで事件を引っ掻き回し暴れまわる元気娘・土佐美郷とそれに振り回される冷静な織田貞夫のキャラクターにワクワクしろと言われるのはちょっと厳しいものがあると思ったからなのだ。

 

まあそんな明るく軽い雰囲気の短篇集なのだが、なんだかんだキャラクターがどうあれどの作品も本格ミステリーとして及第点だったところが良かった。場所が変わればトリックも事件も様々でバラエティ豊かなのもいい。特に気に入ったのは「十番館の殺人」で、暗闇の中ドラキュラに扮装した男が刺殺され、実録ドラマの為に事件をなぞっていたところ、新たな謎が生まれるというもの。目に見えるものの常識、その盲点をついた秀作と言える。