すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

ライオンハート  (ねこ4匹)

イメージ 1

恩田陸著。新潮文庫


いつもあなたを見つける度に、ああ、あなたに会えて良かったと思うの。会った瞬間に、世界が金色に弾けるような喜びを覚えるのよ……。17世紀のロンドン、19世紀のシェルブール、20世紀のパナマ、フロリダ。時を越え、空間を越え、男と女は何度も出会う。結ばれることはない関係だけど、深く愛し合って――。神のおぼしめしなのか、気紛れなのか。切なくも心暖まる、異色のラブストーリー。(裏表紙引用)



あー、もー、これは良かった、良かった。これだ(←ナニガ)
恩田さんのSFラブ作品。いつも恩田作品を選ぶ時は、ジャンルやあらすじ度外視で、雰囲気だけで選ぶので好みに当たるか外れるかは運次第。本作も、てっきり短編集だと思っていたぐらいで。SFラブと言っても、そう一口では片づけられない、美しくて幻想的な作品。


運命の男女が、時代を越えて何度も出会う――それだけなら別に目新しくもないが、私が気に入ったのはこのどこまでも純粋で澄み切った心。例えば、価値観の一致だとか食べ物の好みだとかエアコンの温度だとかデートは割り勘だとか、そういう付け足しの何もない愛。実際には身体の関係に発展しないはずはないという考えなのだけど(←何を書いてるんだ)、それすら超越した世界。そして、いつもいつも出会っては別れ、別れてはどこかで出会い・・・という、想像の延長線上にある「悲恋」ともまた別の領域に物語を収束させたところがこの作者の個性ではないか。それは残酷とも言えるほどリアルで生活感があって、大変好感を持てた。

章によってはミステリー仕立てのものもあり、美しい絵画と共に読者に色々な体験をさせてくれる。王家の紋章と日本の家紋の違いなども面白く、時代背景も追いながら楽しめる素敵な作品。