すべてが猫になる

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本日、サービスデー  (ねこ3.5匹)

 

しがないサラリーマン鶴ヶ崎のもとに、ある日、女の姿をした悪魔が現れた。今日は神さまがくれた、一生に一度の「サービスデー」。どんな願い事も叶う一日だというのだが……。この大チャンスを、彼はどう生かすのか?(表題作)アパートに現れる女性の右手首だけの幽霊と住人の、不思議で心温まる交流(「あおぞら怪談」)。短編の名手が贈る、心に元気をくれる傑作集。


「わくらば日記」「かたみ歌」などのノスタルジックな物語や、ホラー文庫などで東洋的な恐怖を描いた作品を世に送り出し続けて来た朱川さん。今回は、コミカル系ホラーとでもいうのか、現代的で生活感のある世界観の作品ばかりを集めたようだ。こういうのもアリなんだ、へえ。と思いながら取り掛かるわたし。

 

「本日、サービスデー」
完全にコミカル系な不思議物語。このサービスデーってのがうまいことなってて、本来はその本人にそれを知られてはいけないんだって。悪魔のせいで主人公に知られることになったけれど、この制度、実際それほど大きな願いや都合のいい願いは叶えられないみたい。サービスデーに当たっているのは一人じゃないから、例えばAさんが「Bさん死ねばいいのに」と願っても別のCさんが「Bさんに幸あれ」と願ったら相殺されちゃうっていう。あと、石油王になりたいとか言っても元々石油を掘って頑張ってる人じゃないとムリらしい。なんだそりゃ^^;宝くじも、当選発表は別の日だから効力なし。「ちょっとついてる日」って現実に誰にでもあるしね。そういう日があったら、「今日はサービスデーなんだな」と思えばちょっと楽しいんじゃない?ってのが私の印象。
全体的にはハートウォーミングで微笑ましい良いお話。

 

「東京しあわせクラブ」
犯罪や事件に関わる小物などを持ち寄って評価しあうという「しあわせクラブ」。なんか宗教くさいな^^;最初は白けて参加していた主人公がその会に惹かれて行く様を描いているのかな。面白いけど、パンチが弱いな。

 

「あおぞら怪談」
青年のアパートになぜか住み着く右手首だけの女性。文体は軽いけど、これは結構怖いよ。手紙の「おんどりゃあ」がコワすぎる^^;;ひぃ。この右手首はるり子さんというらしい(笑)。家の片付けとかもしてくれたりする(笑)。だんだん読んでいるうちにるり子さんに情が湧いてくるのが凄いね^^;

 

「気合入門」
タイトルは面白かったけど、個人的には普通。兄にコンプレックスを抱く弟が、でかいザリガニを釣るために1人で頑張るお話。

 

「蒼い岸辺にて」
人生に絶望し自殺した少女が、あの世へ渡る川で出会った橋渡しとの会話を続けるうちに、失くしたものの大きさに気付くというお話。実際この少女じゃなくても未来ってこんなもんだと思う。まだ若いしね。
女の子なんて化粧やダイエットでいくらでも美人になれるし、勉強して好きな道を進んだり人間関係をやり直すチャンスも山ほどある。もう戻って来るなよー。


以上。

 

短編集で後半の方が好き、って私には珍しい。別に前半のコミカルが嫌いなわけじゃないけど、あまりにも読みやすすぎて残らないんだよね。ファンには「あれ?」って感じのものも結構あるけれど、どなたにも薦めやすい良作そろいです。