すべてが猫になる

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カササギたちの四季  (ねこ3.7匹)

道尾秀介著。光文社。

 

開店して2年。店員は2人。「リサイクルショップ・カササギ」は、赤字経営を2年継続中の、ちいさな店だ。店長の華沙々木は、謎めいた事件があると、商売そっちのけで首を突っ込みたがるし、副店長の日暮は、売り物にならないようなガラクタを高く買い取らされてばかり。でも、しょっちゅう入り浸っている中学生の菜美は、居心地がいいのか、なかなか帰ろうとしない――。


完全に遅れを取っておりますミッチーの新刊・・・ではない。
今回の作品は連作ミステリ短編集ということで、ミッチーの新境地か!?と心も躍る。舞台がリサイクルショプ(しかも赤字経営)で、ミステリ好きの探偵役(実は見せかけ)とリペア技術と推理力に長けたワトスン役(実は探偵役、語り手)をメインというなかなか楽しそうな設定。探偵役の推理がすべて間違っている、というのならどこかにありそうかなと思うけれど、読者にとって真の探偵役は別にいるってところがいいね。2人とも心に傷を持った中学生の少女を悲しませないために頑張っているわけだけど、世界観がちょっとコミカルで笑いが入っているものだから重たくはないのよね。それぞれの事件も、大人の事情のイヤ~な感じはあるけれど殺人とかではないし。


それぞれ感想を。

 

「春 鵲の橋」
毎回冒頭で出てくることになる「ヤクザ和尚」がおもろい(笑)。何がヤクザかってぇと、気の弱い日暮にガラクタ同然の家具やら楽器やらを高値で引き取らせるという・・・(笑)。で、これは「ブロンズ像放火未遂事件」の物語。ショップの倉庫に眠っていたブロンズ像を燃やしたのは誰か?そしてその目的は?華沙々木の大ハズレ推理から始まって、日暮が掴んだ真相はこれまた下世話で嫌らしい醜いもの。子供の想いがツライ。。それでも日暮の解決方法には優しさがあって素敵だ。それが菜美にだけ向けられたものじゃないていうのがとってもね。

 

「夏 蜩の川」
ヤクザ和尚改め「強欲和尚」で幕を開ける今回は、木工所で起きた神木無茶苦茶傷付け事件。鳥居は作れなくなったけど、神輿なら作れそうだ、ってところが事件のミソ。ここに出てくる弟子たちもなかなかつかみどころがなくて、それぞれ目立っていて面白く読める。犯人については良いとして(なにが)、動機はなんというか現代っぽいっていうのかリアルっていうのか、ちょっと残念だわね。

 

「秋 南の絆」
強欲和尚改め「因業和尚」からの被害で今回も身も心もクタクタの日暮くん。そして赤字経営ショップに舞い降りたビッグビジネス、大量購入のご注文。そこから始まる泥棒とお魚にまつわる犯罪。そしてこれは菜美と日暮たちが出会うきっかけとなった事件でもある。母親に虐げられ心に寂しさを持ち続ける菜美だが、事件を追ううちにこんなあたたかい人も居たんだなとホっとする。

 

「冬 橘の寺」
あの強欲因業ヤクザ和尚が、日暮たちに無料でみかん狩りを!?良かった良かったと思ったのもつかの間、強欲因業ヤクザなだけでなく卑怯者だったとは・・・!!(笑)てか、学習しようよ日暮くん。今回は和尚とその息子(養子)が絡んだ貯金箱バラバラ事件。うーん、ちょっとした誤解が生んだ行動っていうのが悲しいね。連作ならではの繋がりもあるのがいい。しかし人って難しいなーとつくづく思う。こういうのって、人生経験積んでいようとなかろうと関係ないのかなって。


以上。

 

キャラクターがそれぞれみんな違うタイプなのに、誰も憎めないというのは安心して読めるね。ミッチーらしい「毒」はあるにはあるけれど、こういう完全に癒しタイプのものはなかったんじゃないかな。シリーズ化も出来そうだし、誰からも愛されそうな優しい作品集。