すべてが猫になる

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プロメテウスの涙  (ねこ3.8匹)

 

激しい発作に襲われる少女・あや香。米国の医療刑務所で、終わりなき地獄の責め苦を受ける不死の死刑囚。時空を超えて二人をつなぐ運命の桎梏とは。

 

乾さん2冊目。
私の事を私よりも詳しいお友達ならご存知かもしれないが、私はこの方のかなり評判のいいデビュー作をあまり好まなかった。今となっては何も記憶にないが、今読み直したら気に入るのかもしれないな、と思っているところが少しあってまた挑戦してみた次第。なんとな~く、この方の小説は「私は知りませんよ~はいは~い」と言ってスルーする気になれない吸引力があるのだ。

 

で、本書。
初長編ということだが、かなり予想を裏切る題材だった。ホラーテイストの作家さんであり、多少の不快感を伴う筆致だったことは記憶にあれど、設定よりも文章に重きを置くタイプだったイメージがある。本書では主人公である精神科医・涼子のもとに、チック症に似た症状を抱える少女とその母親が訪れる。そして、突然奇声を発し奇妙な手の動きを繰り返す少女の病名を突き止められる医師はおらず、母子は病院を転々としているのだという。この時点では、「あ~、なんかに取り憑かれました的な?」と若干の予想はつくのだが、舞台がアメリカに飛び謎の「死なない死刑囚」が登場したあたりから物語の面白味が増し始めた。輸液を外しても電気椅子にかけても何をしても死なず、死臭を放ち、その見た目は死者をも凌駕する恐ろしさだ。このアメリカの死刑囚と日本の少女に何の関連が?というのは、涼子の親友でありアメリカへ留学中の祐美が橋渡しとなる。涼子と祐美、どちらもあまり好きなタイプではないが本人同士は絆を感じ合っているご様子。まあそこはご勝手に。

 

厳し目に言えば、患者とのやり取りはイラっとさせられる割に解決策を見出してからの展開は拍子抜けするほどスムーズだ。涼子の元彼は何のために出て来たのだろう。物語としてはスッキリと本を閉じられる終結だが意外性もなく、悪く言えば一本調子。う~ん、でもわし、こういうのなら嫌いじゃない。死刑囚の描写といい、ちょっと他にない視点を持っているところはやはり気になるので読破したい作家の仲間入り決定。