すべてが猫になる

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開かせていただき光栄です  (ねこ4.8匹)

 

18世紀ロンドン。外科医ダニエルの解剖教室から、あるはずのない屍体が発見された。四肢を切断された少年と顔を潰された男性。増える屍体に戸惑うダニエルと弟子たちに、治安判事は捜査協力を要請する。だが背後には、詩人志望の少年の辿った稀覯本をめぐる恐るべき運命が……解剖学が先端科学であると同時に偏見にも晒された時代。そんな時代の落とし子たちがときに可笑しくも哀しい不可能犯罪に挑む。(裏表紙引用)


ランキング本が発売される前に予約しておいて良かった!私の後詰まってるけどすぐ廻って来た。

 

も~~皆川さん最高っす。なんですかこの作品は。献体が少なく、墓地から手を廻して屍体を入手するしかないというダニエル解剖チームの面白さと言ったらなんですか。ダニエルを尊敬し、敬愛しているという共通点を持ちつつ個性派ぞろいのキャラクター。容姿端麗エドワード、天才細密画家ナイジェル、おしゃべりなクラレンス、骨皮アルバート、そして役には立つけど目を離したら屍を食べちゃう愛犬チャーリー。まだまだ居ます。ダニエルの兄で内科医、彼のお陰で解剖教室を存続出来るが嫌われ者のロバート(こいつが犯人か?)エドとナイジェルを唯一の親友と慕う詩人を夢見るネイサン。(死体となって登場;;)盲目でありながらその頭脳は誰よりも鋭い治安判事・ジョンに助手で姪のアン。(男装の麗人!)通称ボウ・ストリート・ランナーズ!相手側ながらかっけえええ!


屍をもらってくる手段が犯罪なので、ランナーズが来るたびに弟子一同で暖炉に隠さなきゃいけないのが笑える。そして出すたびに屍体が増える(笑)。屍体を前に繰り広げられる真面目な会話がかえって面白くなっちゃってて、ホントタイトルの「開かせていただき光栄です」は作品世界を見事に現していると思う。「開く」ってもちろん屍体の腹よ。死体の出現した経緯や屍体の四肢が切断されていた理由っていうのは、ミステリ的には肩すかしではある。けれど、そういうことじゃないのよ!後でわかるんだけどモゴモゴ。。

 

そう考えてもネイサンを語り手にした章が生きてた。この時代は気に入った本の装丁をデザインを選んで注文して、、っていうシーンがあるのだけど、本好きならちょっと憧れるよね。「マノン・レスコー」がちょっと具体的に語られているのも嬉しくって。ネイサンの恋の行方もドキドキするし、エドたちの解剖教室以外での人柄がわかっていくのも素敵。しかし後見者のエヴァンズむかつくなあ。政治運動にネイサンを巻き込んだハリントンもだけど。法律がちゃんとしてない時代、国ってこんなに頼りないのかと。頼れるのは自分だけ、っていうのがね。小銭拾っただけで流刑とか無実なのに監獄行きとか。。めちゃくちゃだわ。

 

ほんでもって、色んな人が嘘をつくし余計なことをするのが当たり前の物語。手の内を読者に見せてくれていた、と思い込んでいたのが間違いだった!この本は1行1行大切に、と思ってゆっくりじっくり読んでいたから、やっぱ情の移るキャラクター、ってのが何人もいるのだ。展開として自分にはショック続きだったから、最後はやられたなあ、って感じ。自分に絵の才能がなくなったら?その質問にシビアに答えたダニエル、なんだよぅそれでも好きだって言ってやれよぅと思っていたけれど。。毎日毎日屍を切開して、それは研究の対象でしかなくって。結局一番情にもろいのね。。


それにしても、皆川さん。。1930年生まれですか。37歳の私が74年生まれだから。。え~と。。。エエエエエエエエ!!ウソでしょ。どうかどうかこれからもこういう素晴らしく若々しい作品を世に送り出して下さい。お願いしますお願い。