すべてが猫になる

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眠り姫とバンパイア  (ねこ3.6匹)

 

母とふたり暮らしの小学5年生・相原優希は、居眠りばかりしてしまうので、子供の頃から「眠り姫」と呼ばれていた。居眠り癖もあり学校になじめない優希を心配した母はお姉さん代わりの家庭教師をつけていたが、大好きだった美沙先生はアメリカへ留学することに。その代わりの新しい家庭教師・荻野歩実に、優希は大切な秘密を打ち明ける。その秘密とは、父親が3年ぶりに会いに来てくれた、というものだった。母とふたりで暮らしている理由を知らなかった歩実は、前任の美沙に事情を聞いてみるのだが…。父は本当に戻ってきたのか?家族に秘められた謎とは。

 

早速廻って来ました我孫子さん。先日読んだ井上雅彦さんの作品と同じバンパイアものということで、読み比べという意味でも楽しみにしていたもの。あまり知らない作家さんをこのシリーズで読むのも楽しみの一つだけれど、好きな作家さんだと楽しみもひとしお。

 

井上作品がダークファンタジー+冒険ものであったのに対し、こちらは意外にも現実的でヒューマニズムを追求した温かい作品。語り手は小学生の女の子とその家庭教師の青年。主要登場人物もその母親、父親
、元家庭教師の女性と極めて少なく、ページ数も少ないためサラサラサラっと読みやすい物語となっている。が、その内容は母子家庭の女の子の悩みであったり、心の闇であったり、だいぶとシリアス。心を開いてくれそうで開かない優希への接触の仕方や距離の縮め方が分からず煩悶する家庭教師の荻野の苦悶が痛いほど伝わってくる。優希のお父さんはバンパイアなのだろうか?それとも最近噂になっている変質者ではないだろうか?普通なら勉強だけを教えていればいいと、子供の夢物語を右から左へ流す大人も多いだろうに、不器用ながら優しく思いやりのある荻野には多くの方が好感を持つだろう。

 

とてもあたたかく良い物語だったと思うし好きな部類だが、後半で突然「推理小説」めいた文調になったのは戸惑った。もちろん「ミステリー」ランドだからそれでいいのだろうが、それならもう少しページ数が欲しかったかな。しかし、この叢書は最初は「こ、これを子供に?」と思うようなものや趣味に走りすぎているものが乱発し迷走気味だったが、ここのところ安定してYA道を邁進しているように思う。やはり読者の反響というものは影響力を持っているものなのか。

 

ところで。気付いた方いらっしゃるでしょうか。今までずっと「刊行予定」に名を連ねていた京極夏彦さんのお名前が抹消されています。。一番楽しみにしていたと言っても過言ではない作家さんでした。。ショックです。。。誤植であって欲しい。。(恩田陸さんのお名前はまだあります、ご安心を)