すべてが猫になる

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出口のない部屋  (ねこ3.8匹)

 

私に差し出されたのは「出口のない部屋」という題名の原稿。「読ませていただいてよろしいですか?」彼女はロボットのように無表情のまま頷いた。それは、一つの部屋に閉じ込められた二人の女と一人の男の物語だった。なぜ、見ず知らずの三人は、この部屋に一緒に閉じ込められたのか?免疫学専門の大学講師、開業医の妻、そして売れっ子作家。いったいこの三人の接点はなんなのか?三人とも気がつくと赤い扉の前にいて、その扉に誘われるようにしてこの部屋に入ったのだった。そして閉じ込められた。『密室の鎮魂歌』で第14回鮎川哲也賞受賞の岸田るり子が鮮やかな手法で贈る、受賞第一作。


岸田さん2冊目。
これが一番面白いと聞いたので早速^^フムフム、なるほど。レーベルがレーベルなだけに、こちらの方がより本格に近い印象。「天使の眠り」もなかなか手が込んでいたが、読者を翻弄させ苦しませる内容を選びたいならばこちらだろう。叙述ではないが、折原一を思い起こさせる人物造形と構成だなあと思った。これに騙しの仕掛けを加えれば貫井徳郎になると思うがどうか。

 

本書は作家の原稿という形で無関係な三人の男女がある無機質な部屋に閉じ込められる章と、彼らがどういう人間でどういう運命を辿るかを順番に綴ったタイトル章の二重構成。目覚めたら知らない誰かと知らない部屋にいた、という状況設定はよく見かけるもので目新しくはない。面白いのは彼ら1人1人の生活と人間性を紐解いて行く部分で、特に「歪んだ魂」からの登場人物同士の交差が巧い。登場人物が少ないことと、ヒントを隠す意図がないためかある程度の予想はつくのだが。


最後まで読むと、本格と呼ぶにはちと惜しい。メタを狙ってるわけでもなさそうだが、それならば「出口のない部屋」の章を放置しないで欲しかった。謎の判明はしているのだが、これでは引き締まりに欠ける。犯人の動機や正体は力技に近いものがあるし、ちょっと挑戦のしどころを実力より上に置きすぎたのではないか。

 

面白さで一番、という点は正しいと思っている。岸田さんでこれより面白い作品を探すのは難しいだろうなということも。が、出版社は違えど「天使の眠り」のほうが文庫化されていることに納得せざるを得ないのよ。