すべてが猫になる

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夏草の記憶/Breakheart Hill  (ねこ4匹)

トマス・H・クック著。文春文庫。

名医として町の尊敬を集めるベンだが、今まで暗い記憶を胸に秘めてきた。それは30年前に起こったある痛ましい事件に関することだ。犠牲者となった美しい少女ケリーをもっとも身近に見てきたベンが、ほろ苦い初恋の回想と共にたどりついた事件の真相は、誰もが予想しえないものだった!ミステリの枠を超えて迫る犯罪小説の傑作。(裏表紙引用)



トマス・H・クック二冊目。
情緒的な文章が苦手だな~~という印象があったのだけど(元々自分はクリスティでも過去の事件を洗うモノが好きではない)、慣れればなんてことない。そして本書は道尾さんの生涯ベスト3ミステリということもあってか、概ね好意的に読めた。まあ、「記憶」とのタイトルでわかるように、前回読んだ作品(「緋色の記憶」)と同じく回想もの。この作家さん、リスト見ると「~記憶」ばっかりなんだけど回想作家なの?^^;ま、「回想」ってのは青春時代の淡い初恋とかほろ苦いケンカとかを呼び起こさせるものでもあるから、文章とマッチしてていいのかも。

まあでも、それほどの長編ではない割に中盤は少し冗長ぎみ。少女の事件よりも少年の初恋のほうに焦点が行っているためか、ところどころ退屈かも。そもそも、30年前の記憶を毎日毎日、誰がどう話しただのそのあとこう思っただの天気はこうだっただの、覚えているはずないのになあと無粋な事を思うどうしようもないワタクシ^^;。作中にもあるように、記憶を美化していたり都合のいいように繋げているんだろうな。だって、リアルタイムで子供として感じたものが、たとえ本人であろうと大人の立場で同じように表現できるはずがないもの。「知っていて語る」のと違っていて当然ってところがミソかもね。


で、肝心の事件の真相なんだけど。これ、多少は語り手に謎を持たせているので、ある程度「こうなんだろうな」という予測は立つ。その予測を立たせた上で、違った観点から攻めて来たっていうのが凄かったんだな。これ、ひょっとしたら最初の予測より酷いもの。この小説全体の美しさが、最後に悲しさおぞましさとして表情が変わる姿に寒気がした。