すべてが猫になる

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竜が最後に帰る場所  (ねこ4.3匹)

恒川光太郎著。講談社

恒川光太郎が五つの物語で世界を変える―。風を、迷いを、闇夜を、鳥を。著者はわずか五編の物語で、世界の全部を解放してしまった――。静謐な筆致で描かれた短編は、小説の新たな可能性を切り拓く!(紹介文引用)


遅れを取りましたが、恒川さんの最新作。いやいやはやはや、本作に来て新たに眠っていた才能が開花、って感じですな!10日以上かかる本もあれば、1日もかからず読めちゃう本もある~。本作は、恒川さんらしい幻想的な作風に少し怖い要素を加えたダークファンタジー短編集、という印象。どれもこれも個性溢れる傑作揃い!


「風を放つ」
学生のシゲの携帯にかかってきたマミという謎の女。どうやらシゲの先輩の彼女ということらしい。しばらく相手をしていたシゲだが。。このマミさんはいわゆる今風のギャルというのか、頭カラッポな話し方と内容ばかりで読んでてイライラ。しかしシゲのほうが1枚上手だったのかな?お話的には意味不明なんだけど、瓶の中のナントカという小道具を含ませつつ空想を膨らませる仕上がりに。なんか知らんけど、いつまでも印象に残ってる人って居るよねえ。

「迷走のオルネラ」
一番の傑作がコレかな。母の愛人に虐待されたあげく母を殺された当時の少年の復讐劇なんだけど、構成が秀逸。ファンタジー要素を含めつつ現代の問題に絡ませて、単なる復讐ものになっていない。こういう復讐の方法があるのか、ある意味殺すより残酷だなあと。リアリティはないけど人間の黒い部分というものを「物語」として消化してるね。

「夜行の冬」
これも良かった。あの世への旅なのか、違う人生への旅なのか。夜に団体で歩き続ける集団の物語。そこで出会った人々の人生や性格も様々で、旅の終着点も様々。転んで歩けなくなってしまった女性のシーンが衝撃的で恐怖だなあ。そのあとの主人公の心境の淡々とした描き方も好きだー。

「鸚鵡幻想曲」
偽装集合体が見えて解放できる青年の紹介が物語の発端。今自分が使ってるパソコンもテレビも蟻かなんかの集合体だったりして・・・?^^;とゾクゾク。語り手だと思っていた青年がまさかの展開になったあたりからは恒川さんは天才だと思った。オチはあまりピンと来なかったけど、これも好きな作品。

「ゴロンド」
「竜が最後に帰る場所」がタイトルでもいいかもしれない。ゴロンドは竜の名前ね。ゴロンドが生まれてから何かになるまでの過程が映画みたいで良かったなー。あとは普通かな。


以上~。

5編収録だけど、特に真ん中の3編が素晴らしい。恒川さんのデビュー作の雰囲気とクオリティにさらに
こなれた筆さばきが加わった。発想力に物凄い前進を感じて嬉しい1冊となりました。