すべてが猫になる

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折れた竜骨  (ねこ4.4匹)

米澤穂信著。東京創元社

ロンドンから出帆し、波高き北海を三日も進んだあたりに浮かぶソロン諸島。その領主を父に持つアミーナはある日、放浪の旅を続ける騎士ファルク・フィッツジョンと、その従士の少年ニコラに出会う。ファルクはアミーナの父に、御身は恐るべき魔術の使い手である暗殺騎士に命を狙われている、と告げた……。自然の要塞であったはずの島で暗殺騎士の魔術に斃れた父、「走狗(ミニオン)」候補の八人の容疑者、いずれ劣らぬ怪しげな傭兵たち、沈められた封印の鐘、鍵のかかった塔上の牢から忽然と消えた不死の青年――そして、甦った「呪われたデーン人」の襲来はいつ?(あらすじ引用)



あのホノブが、本格ミステリ+ファンタジー大長編を上梓!というわけで、二段組にも恐れをなさず挑戦。舞台は中世、設定は<魔法>ということでファンタジー一色の内容なのかと思いきや、これは立派に本格ミステリだった。特殊状況下のロジック、と言えばミステリファンなら「ああ、あれね」ってな感じですぐルールを取り込めると思うので心配なし。

主人公はソロン諸島の領主ローレントの娘・アミーナ。探偵役として活躍するのはそのソロン諸島に流れ着いた「聖アンブロジウス病院兄弟団」の騎士・ファルク。助手役にその従士であるニコラ。様々な事情と共に、ソロン島領主の命を心配してやって来たファルクだが、祈りむなしくその領主は作戦室にて何者かに刺殺されてしまう。容疑は客である騎士8人にかかったが、ファルク曰くその殺人者は暗黒騎士に魔法をかけられ、殺人を犯した記憶がないという。そんな中からわずかな手がかりと論理で犯人(走狗)を
名指ししなければならない。。。

まず、キャラクターの名前と身分を覚えるのが大変かもしれない^^;登場人物紹介欄があるので読みながらゆっくり照らし合わせて覚えて行こう。設定も特殊なので、それがいかにロジックに影響するかが楽しみどころ。もちろんそれぞれのキャラクターは生き生きと描かれており、ファンタジーであるがゆえに
異世界の考え方を自然に受け入れられそうだ。

語りたいことはたくさんあるが、まずは本格ミステリファン向けの作品だということは外せない。特殊設定とはいえ、ここまで真面目に本格しちゃってる作品がほとんどないのが現状(いや、自分が知らないだけなのかもしれないが、少なくとも私達の話題にのぼるものの中では)。私としてはそれだけでもテンションが上がる。消去法、伏線回収、真相解明後の逆転劇、どれをとっても自分には満足の行く作品だった。満点にしなかったのは、ファンタジー路線で見る物語の高揚がなかったから。ミステリファンはぜひ二段組に腰を引かず、米澤穂信という作家に対して持つイメージを取っ払って挑戦してみて下さい。


(332P/読書所要時間5:00)