すべてが猫になる

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空想オルガン  (ねこ3.8匹)

初野晴著。角川書店

吹奏楽の”甲子園”普門館を目指すハルタとチカ。ついに吹奏楽コンクール地区大会が始まった。だが、二人の前に難題がふりかかる。会場で出会った稀少犬の持ち主をめぐる暗号、ハルタの新居候補のアパートにまつわる幽霊の謎、県大会で遭遇したライバル女子校の秘密、そして不思議なオルガンリサイタル……。容姿端麗、頭脳明晰のハルタと、天然少女チカが織りなす迷推理、そしてコンクールの行方は?(紹介文引用)


初野さんの人気シリーズ、待望の第三弾。これ、「ハルチカシリーズ」という名前が付いたんだね。この作家さん、最初は不安定なところもあったけど(その分パワーがあった)このところ安心して読める作家さんの仲間入りを果たした感じ。安心だけじゃなく、多少の刺激や毒もあるのがまたいいんだ。

本書も序章+四編収録の連作短編集。

「ジャバウォックの鑑札」
珍しい犬種の迷子犬の飼い主は誰か、というお話。その前に、チカが七メートルのベランダから落下した男児をキャッチしたという凄いプロローグが。君はランボーか^^;まあ初野さんらしい優しさの込もった普通のミステリ。

「ヴァナキュラー・モダニズム
ハルタの新居探しから始まった、あるアパートの大家さんの謎。このトリックは一読の価値あり。謎が全て繋がって、なおかつ夢がある。ハルタの一番上のお姉さん登場。しかし、男言葉を喋る以外に女性キャラを立たせる方法はないのか最近の作家はと思っていたら、それ以上のつわものだった^^;スキだわ、このシト。。。

「十の秘密」
コンクール会場でチカたちが出会ったライバル校。色黒、茶髪、デコときゃぴきゃぴのギャルばかりがエントリーする清新女子高校のメンバーには、十の秘密があった。。。お話としては1、2番くらいに面白かったのだが、彼女たちの「凄い」演奏シーンは描くべきじゃない?小説では出来ないってことはないと思うんだけど。で、秘密の真相。これはさすがに奇を衒いすぎた感が。

「空想オルガン」
表題作だけあって、さすがの出来。オレオレ詐欺を働く男が主人公なのだが、これがなんだか大きな秘密を抱えてそうな。ほろりと泣ける真相に加えて、一編目とリンクした仕掛け。


以上。
出来は落ちていない。「当たり」の作品が半々というのもいつも通り。自分は、短編集の場合一作でも当たりがあればいいと思うタイプだから。草壁先生の過去、引っ張りすぎというかあまり進展させないのは不満。ハルタがいまいち目立ってなかったかな。ほとんどの事件と吹奏楽が関係ないのは作風だからいいんだけど、「吹奏楽である必要はない」ところまでは下げないで欲しい、今後ね。


(285P/読書所要時間2:30)