すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

ピカデリーの殺人/The Piccadilly Murder  (ねこ3.6匹)

イメージ 1

アントニイ・バークリー著。創元推理文庫

これを奇遇と呼ぶべきか。伯母と犯罪学と切手蒐集から成る人生に安住していたチタウィック氏は、訪れたホテルで一人の老婦人が白昼堂々毒殺される現場に遭遇する。この女性がなんとも伯母さんというほかなく、氏自身が犯行を目撃した人物が甥っ子ときた。訴追側の証人No.1として、氏は渦中の人となるが……?考え抜かれた話術で面目を躍如とさせる手練の謎解きミステリ!(裏表紙引用)


バークリーのチタウィック氏もの。時期的に「毒入りチョコレート事件」で名が知られた後のチタウィック氏が描かれている。「試行錯誤」と比べても、本書が一番チタウィック氏が活躍らしい活躍を見せている作品ではないだろうか。

バークリー作品のコミカルさはこちらのシリーズでも健在で、随所に笑いが見られる。訳のうまさもあるだろうが、イギリス人特有の習慣や考え方が特筆され、このあたりお好きな人にもオススメ。ミステリとしては、今まで読んだバークリー作品の中で唯一まともと言えば怒られるだろうか。チタウィック氏が
偶然目撃した毒殺事件を、関係者に巻き込まれながら捜査していくドタバタもの。推理の部分は至って真面目で正道であり、人間心理を突いた良作と言えよう。

自分としては、シェリンガムと比べてやっぱりどうしてもチタウィック氏には愛情が湧かない。おとなしい人物像なので仕方がないのだが、チタウィック氏の心のブレを指摘するモーズビー警部の方がかっこよく見えるんだよな。普通に楽しめる作品ではあるが、これを最初に読むバークリー作品にはして欲しくないというのが正直なところ。

(354P/読書所要時間3:00)