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鋼鉄都市/The Caves of Steel  (ねこ4.3匹)

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アイザック・アシモフ著。ハヤカワ文庫。

突然、警視総監に呼びだされたニューヨーク・シティの刑事ベイリは、宇宙人惨殺という前代未聞の事件の担当にされた。しかも、指定されたパートナーは、ロボットのR・ダニールだった。ベイリはさっそく真相究明にのりだすが、巨大な鋼鉄都市と化したニューヨークには、かつての地球移民の子孫であり現在の支配者である宇宙人たちへの反感、人間から職を奪ったロボットへの憎悪が渦まいていたのだ……傑作SFミステリ!(裏表紙引用)


初・アシモフのSF長編。ミステリファンにとってアシモフと言ったら「黒後家蜘蛛の人」なのだが、こんな凄いSF作家だとは読むまで本当の意味では知らなかった。体裁がミステリになっているのはイメージを崩さないが、壮大なSFヒューマンドラマとしても、SFミステリとしてもどちらで評価しても素晴らしい作品であることに変わりはないだろう。

遠い未来の地球。人口が80億人となった地球人は、大気に汚染されない鋼鉄のドームの中で生活しているという。ニューヨーク市民には階級が与えられ、ランクによって生活レベルが向上して行く。が、地球の人々はロボットの進出により失業者が増え、支配者である宇宙人に生理的嫌悪感を持っている。主人公である刑事イライジャとその妻もその1人で、今回の「宇宙人殺害」を共同捜査するダニール・オリヴォーに対して信頼感を抱けないでいた。。

ざっとまとめた基盤のストーリーはこうであるが、もうこれだけでお腹いっぱいだ。殺人事件の捜査と推理が主流であるが、その設定を可能にするまでの機軸に完璧に筋が通っている。しかも説明過多で独りよがりですらない。すうっとこの世界に馴染んでしまう。ロボット三原則の1つである「ロボットは人間に危害を加えてはならない」は有名であるが、その常識すら事件の中に取り込んで、推理のきっかけとしてしまう。途中で何度も繰り出されるイライジャの誤った推理ですら、結果としては「間違えた探偵」の面白さを描いているなんていうニヒルなものではないのだ。そして、この物語を重厚たらしめているのは、間違いなくイライジャとオリヴァーの、人間とロボット同士の信頼関係が築かれる様であり、未来を見つめる「地球人」代表イライジャの視点だ。感動的エンディングのベストに間違いなく挙がるだろう。


さて、少ないながらもここ数年で数々のSF傑作を読んでみたが。
それらには、自分が好きだった有名なSF映画の感動的場面やテーマを彷彿とさせることが多い。もしかしてもしかしなくても、最初にそれらを生み出しているのはこのアシモフを代表とするSF作家さんたちなのか。タイムマシンに乗って、新本格のSFミステリややこしいとか思っている過去の自分にアシモフを読めと言ってやりたいよ。

(344P/読書所要時間3:30)