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貴族探偵  (ねこ3.9匹)

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麻耶雄嵩著。集英社

自称貴族が活躍する、異端の本格ミステリー 自称「貴族」、趣味「探偵」の謎の青年が、生真面目な執事、可愛いメイドなどの召使いとコネを駆使して、難事件を華麗に解決! 知的スリルに満ちた本格ミステリー名手。 (紹介文引用)


麻耶雄嵩、五年ぶり待望の待望の待望の新刊。あまりの緊張に読む手が震えるぜ。
ブログ開設1~2年目からのお仲間さんしか知らないと思うが、この麻耶さんはゆきあやが現代の国内作家の中で一番好きだと公言している方である。

この「貴族探偵」はまったくの新キャラクター。2001年~2009年に「小説すばる」で連載されていた連作短編を1冊に纏めたもの。作風はもちろんガチガチの本格で、時代錯誤なキャラクターと麻耶さんらしいロジックで固められた文句なしの出来映え。最初の1,2編はやはり悪文でかなり読みづらいが我慢すれば3編目あたりからスムーズに読めるようになる。ファンの間ではこの3編目が一番好評のようだ。自分はその3編目「こうもり」と4編目の「加速度円舞曲」が特に気に入った。麻耶さんらしい突拍子もない発想が炸裂している。

そしてやはり本書の特徴と言えば、「貴族探偵」なる人物の存在に対する違和感と魅力だ。
一体何者なのかは最後までわからない。事件が起きれば捜査を駆って出るものの、実際に検証や推理を行うのは使用人達なのだ。貴族は女を口説く以外に何もしていない。ある意味安楽椅子探偵なのだが、一堂を集めてさてと言うおいしい役まで使用人にやらせる探偵など見たことがない。しかもその使用人達は執事に加え格闘家のような体格の運転手や萌え系とおぼしきメイド。彼らの名前は山本、佐藤、田中である(笑)。使用人は自分の所有物だとのたまう主人と外見だけが個性的な脇役たち。この構図は無個性だけに不気味だが、結果チームとしての個性を作り上げているのだ。こんな方法があるのかと舌を巻いた。


本書は間違いなく年末のランキングに入って来ると思う。本格のほうね。
麻耶ファンは必読、生粋のミステリファンも読んで損はない。初期のような眩暈を起こすほどのイカレっぷりは薄めだが、変わらないその姿に自分は満足した。

(292P/読書所要時間3:30)