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サイン会はいかが? 成風堂書店事件メモ  (ねこ3.6匹)

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大崎梢著。創元推理文庫

「ファンの正体を見破れる店員のいる店で、サイン会を開きたい」―若手ミステリ作家のちょっと変わった要望に名乗りを上げた成風堂だが…。駅ビルの六階にある書店・成風堂を舞台に、しっかり者の書店員・杏子と、勘の鋭いアルバイト・多絵のコンビが、書店に持ち込まれるさまざまな謎に取り組んでいく。表題作を含む五編を収録した人気の本格書店ミステリ、シリーズ第三弾。 (裏表紙引用)


地元の中堅書店の書店員さん・杏子と多絵が活躍する成風堂書店事件メモシリーズ第3弾~。第2弾の初・長編がちょっと違和感ありありだったのだが、今回でまた短編集として復活。やっぱこういうのの方が雰囲気に合ってるし楽しめますわ。

「取り寄せトラップ」
成風堂に注文された4冊の本は品切れだったが、いずれの4人も注文した覚えがないという。頭を悩ませる杏子達だが、そこへ現れた一人の女性客が。。。
取り寄せ事情が読めたのはありがたいが、事件としてはなんのこっちゃである。「小説は現実の鏡像であれ」、とは思わないが、読者がそこにリアルを感じられないとダメだな。

「君と語る永遠」
成風堂に社会科見学に現れた小学生軍団。その中から1人はぐれた少年は、書店内で不可解な行動ばかりを取る。。。
変質者のくだりは必要だったのかな?と思った。こんな熱血教師どこを探したら居るんだろう、とも。
でもお話のまとめ方は好き。少年の将来像が見えるようだった。

「バイト金森くんの告白」
タイトル通り、バイト金森くんと客である女子生徒のラブストーリー。
はっきり言ってどうでもいいのだが^^;「ストーカー対処法」って(笑)。よりにもよって^^;

「サイン会はいかが?」
表題作だけあって一番夢中で読めたお話ではある。が、「レッドリーフ」なる人物の動機が理解不能だった。当時なら腸煮えくりかえったであろうが、何年も経って社会人になってまだここまで根に持つ人物の心理の方を疑う。人は誰でも許せない事のひとつやふたつ持ってるよ。人生を破壊されたのならともかく、普通は仕事や生活を中心に生きて憎しみだけではやっていけない事に自然と気付くんだよ。根に持つのと、実行する人って大きな隔たりがあると思う。多絵が他人事なのに怒っているのもヘンだよ。正義感を演出したかったんだろうけど。
話は変わるが、サイン会なるものに行きたくてたまらなくなるお話(笑)。

「ヤギさんの忘れもの」
常連客である老人が久しぶりに成風堂に来店すると、気に入りの店員が退職した後だった。失意の老人が持参したスナップを店内で紛失したというのだが。。
唯一なんの違和感もなくほっこり読めた作品。ミステリとしてどうということはないのだが、人と人の触れ合いを書店を通じて感動的に描いていると思う。


以上。あれこれ書いたけど、かなり面白くワクワクと読んでいた事だけはわかって下さい^^;
本屋の仕事の色々な事情が楽しい作品だけど、接客、販売に携わった事のある人ならば「どこの業界も苦労は同じだな」とニヤニヤして読めると思う。ただ、数が膨大なため検索や発注は他業種より大変そうだけどね^^;本屋ならではの「へえ~」ポイントは付録の苦労とか帯の迷惑さとかかな(笑)。実在する雑誌や作家名が出てくるのも嬉しいね。

あと、あとがきがなんと坂木司さんでした。坂木さん!こんなところで会えるとは!(笑)。本がデジタル化する事に関しての悲劇を述べておられたり(このあたり、本好きにはかなり共感出来る意見ばかり)、本屋の魅力について語られていたりと、坂木さんの本好き度がひしひし伝わって来ます。


(301P/読書所要時間2:00)